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プロローグ
「しーくんね、花ヶ前(はながさき)学園に行くんだって」
小さい頃、母がそんなことを言っていたことを思い出した。
そこがどんな所かは、当時5歳だった僕には分からなかったけど、しーくんと会えなくなる事だけは何となく分かった。
結局、会えたのは長期休業中の少しの間だけ。
中学に上がったらもっと会えなくなった。
「母さん、花ヶ前ってさ、高校からでも行けるのかな?」
「うーん、不可能じゃないけど難しいわよ〜?」
「そっかぁ…」
「ふふ、しーくんに会いたいのね〜?」
「うん…」
そんな会話をしている時だった。
運命の電話がかかってきたのは。
『 深山尋衣(みやま ひろい)くん、あなたを花ヶ前学園高等部の外部特待生として、入学を許可致します。』
電話の向こうの人物は、淡々と告げた。
この時、時期的に言うとまだ中3の夏。公立どころか、私立入試すら始まっていない。
「あの、僕、受験してないのですが…?」
『それは心配ないよ、ひろくん。』
さっきの人とは、違う声。
しかも知ってる声だ。
「し、獅之助(しのすけ)さん…!?」
『やぁひろくん、久しぶりだね』
「獅之助さんがなんで…」
『あれ、知らない?私は花ヶ前学園の理事長で、高等部の学長しているんだ』
「えぇっ!」
『ははは』
「で、でもなんで僕が選ばれたんですか?」
『…私が推薦したんだよ、ひろくん』
獅之助さんが、僕を…?
『君の成績を見たけど、流石。とても優秀だよ。ウチにいてもおかしくないレベルだ。それに、君には舞台に立って輝く才能もある。』
……?どういう、
『勝手ながら見させてもらったんだ。文化祭の歌』
「!」
『花ヶ前はその才能を磨くことができる。カリキュラムについては、また資料を送らせてもらうよ。』
夢みたいな話だった。
しーくんに会いたいのもあったけど、花ヶ前は歌とかダンス、舞台芸術に力を入れてるって聞いていた。
断る理由はないだろう。
「ありがとうございます、僕、頑張ります…!」
『うん、それを聞けて嬉しいよ。入寮は4月だから、その時また会おうね。』
「はい…!」
『それと、学費はこちらで負担するから。あとは、ひろくん』
「はい?」
『前髪、伸ばしといてね』
「え、」
『ばいばーい』←
「あっ、ちょっ」
(ツー、ツー)
き、切られた…。
前髪伸ばしてってどういう…
「尋衣〜?獅之助さん?」
「あ、うん。」
「あらぁ〜、なんだって?」
「なんか、花ヶ前に外部特待生として入学してって」
「まぁ!後でメールしなきゃ〜」
こんな感じで、僕の進路は花ヶ前学園に決定した。
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