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76:シシマの配慮
見ていると、なるほど、ヤシバナナたちもボール遊びに参加していた。ボールが飛んでくると、空中で停止しながら頭で器用にボールを返すのだ。コントロールも抜群で、ラリーが何回も続いていた。
「さすがシシマの飼い鳥。普通じゃねえな」
ユタカが、呆れ半分、感心半分で言った。
「シシマ君は、ああ見えて、けっこう気を遣ってくれてるんですよ」
「はあ?」
「え?」
意味が分からず、タッペイとユタカはきょとんとした。
コータローは、コーヒーを一口飲んでから言った。
「今日のランチを提案してくれたのは、シシマ君とシナコさんなんです。我々は、この島に流れ着いてから、三人でゆっくり話をしたことがないでしょう?」
「うん、確かに・・・」
とタッペイ。
「一度、お互いの言いたいことを言って、話を聞いたほうがいいと。ボール遊びを始めたのは私たちへの配慮です。わざと席を外してくれたんですよ」
「ふん、おシナはそうかもしれねえけど、シシマはただ遊びたかっただけだろ」
ユタカはテーブルに肘を付き、頬杖をついた。笑いながらボール遊びに興じるシシマを眺める。
「で、コータローよ」
「はい?」
「お前、どうやってシナコ、ものにしたんだよ?」
コータローは、心底軽蔑した目つきでユタカを見た。
「下衆な言い方しますねえ・・・。これだから学のない人間は・・・」
「あ、でも、僕も聞きたい」
不穏な空気を取り払うように、タッペイが言った。
「タッペイ。あなたも存外、俗物ですね?」
「まあ、馴れ初めも気になるけど、それより・・・この際だからはっきり言うけど、シナコちゃん、普通の女の子じゃないだろ?」
コータローは、一瞬目を狭めた。
「それを知ってて、なんで選んだのか、気になったんだ」
コータローが答えるより先に、ユタカが言った。
「んーなの決まってんじゃん。この島にいる女はシナコしかいねえもん。入れる穴があれば、誰でも良かったんだよな?」
コータローは、間髪入れずユタカの鼻っ柱を殴りつけた。タッペイは、今回ばかりはコータローを止めなかった。
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