2:ササニシキとコシヒカリ

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2:ササニシキとコシヒカリ

 コータローは、動じなかった。モスグリーンのネクタイを緩め、生成り色のワイシャツの第一ボタンを外す。 「これだから、教養のない人間は・・・。やりますか? ここでシロクロはっきりさせてもいいんですよ?」 「教養がないだと!」  ユタカは、頭に血がのぼった。もともと筋骨隆々とした体格だが、その筋肉がさらに膨張したような気配を見せる。  ユタカは、口を大きく上下に開いて叫んだ。 「よくも言ったな! じゃあ、お前、ササニシキとコシヒカリの違いを説明できるかっ?」  コータローは、ぽかんとした。その目から鋭さ、敵意、諸々が消え去る。  黙り込んだコータローを見て、ユタカは勝ち誇ったように両手を腰に当てた。 「どうやら分からないようだな! ほうら、見れっ! お前のほうが無教養だ! 馬鹿者!」  ユタカは顔を天に向けて「ガハハ」と笑った。  ここまで黙って一部始終を傍観していたタッペイ(御年二十五歳)は思った。 (ユタカ・・・米農家のお前がそんなこと言っても、誰にも敗北感を与えないぞ) 「と、とにかく」  タッペイは、二人の間に割って入った。 「ここで言い争うのはよそう。それよりも、これからどうするか考えなくちゃ」 「どうするもなにも、まず、こいつを始末しよう」  あっさりと物騒なことを口にするユタカに、タッペイは肝を潰した。 「ユタカ! 冗談にしてもそんなこと言うなよ!」 「冗談じゃねえ、俺は本気だ」  ユタカは腕組みをして、コータローを見下ろした(ユタカは身長183センチあり、三人の中で一番高身長である)。
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