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63:呼び出し
航太郎は、眉をひそめた。さっきの部下が、合鍵を使ってこの部屋に入れたのだろうか。
渡された鍵の理由は、考えるまでもなかった。
航太郎は、女にかがみこんだ。
異国の人間だった。見た目だけの判断だが、十代前半ではなかろうか。顔にも体にも、痣や擦り傷がある。年齢に不釣り合いな濃い化粧をしていた。
少女は、目を開いていた。絶望を絵に描いたらこうなるという眼差しをしていた。航太郎の接近に気付いているはずだが、声も出さず、微動だにしない。
航太郎は、話しかけようとして、やめた。日本語が通じるとは思えなかった。
立ち上がると、ベッドに畳んであった毛布を手に取った。それを少女の体に掛ける。
少女が、わずかに身動きをした。虚ろなまぶたの下、黒目だけをかすかに動かす。
航太郎は、机の上の電話に手を伸ばすと、宿直室に連絡を入れた。
「・・・ああ、夜分遅くに申し訳ない。腹が減ってしまいましてね。今日の宿直に、確か、空川という調理士がいたでしょう? 彼に、部屋まで何か運んでくれるよう頼んでもらいたいんです」
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