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65:心当たり
「助かるって・・・でも、ただでは済まないでしょう?」
辰平は、恐る恐る意見をした。
「もし、彼女が某国でなく敵国の人間だったら? 僕たちは、反逆罪に問われますよ? 重刑は免れません」
航太郎は、少し間を置いてから答えた。
「あなたは、予想以上に利発な人のようだ。ええ、あなたの言う通りのことが起きるでしょうね。国際法では、戦時であっても敵国の非戦闘員に危害を加えることは禁止されていますが、所詮は理想論、絵に描いた餅です。現実では、敵国の人間を助けようものなら、我々は、理不尽な理屈を並べられた挙句、犯罪者に仕立てられ、彼女は抹殺されるか、それより酷い目に合わされるでしょう」
それから、いくらか語調を和らげて続けた。
「だから、今夜、あなたに来てもらったんですよ」
辰平は、当惑して航太郎を見た。
「私は、ここに所属する人間の一挙手一投足を、できるだけつぶさに観察してきたつもりです。あなたなら、リスクを承知で私に加担してくれますよね?」
辰平は、深く息を吐き出した。己の爪先に視線を落とし、目を閉じ、もう一度大きなため息をつく。
次に顔をあげた時には、覚悟を決めていた。
「コミュニティに行くための移動手段が必要です。軍の・・・ここの車両は使えない」
「あなたの言う通りだ。さて、どうしたものか・・・」
「僕に、心当たりが」
それを聞いて、航太郎は目を見開いた。
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