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67:光栄
航太郎の部屋に通されて、少女(薬で眠っていた)を目の当たりにし、事情を聞いた豊は、愕然とした。
「このサイズの袋なら、彼女は十分入ると思う。それを、このコミュニティまで運んでほしいんだ」
辰平の説明にも、豊はうんともすんとも答えなかった。
「それが済んだら、あなたはまっすぐ帰ってください。もし、軍から何か聞かれたら、あなたはただ、深夜に呼び出されて粗悪な米を新しいものと交換したと話せばいい。異例ではありますが、今の時代ならそんな無茶な話があってもおかしくありませんから」
豊は、深刻な表情で押し黙った。
それから、ふいに
「辰平」
と鋭い口調で名を呼んだ。
「なに?」
「どうして、俺に声をかけた?」
「それは・・・」
辰平は、口ごもった。目を伏せ
「すまない」
と詫びる。
豊は、辰平の肩を叩いた。目をあげた辰平に、歯を見せて笑った。
「勘違いすんなよ。俺は、光栄に思って聞いたんだからよう。俺を選んだのは正解だぜ」
それから、航太郎に向かって言った。
「航太郎って言ったな。あんた、いい度胸してるじゃねえか。引き受けてやるよ」
航太郎は、
「よろしくお願いします」
と頭を下げ、それから、真剣な面持ちで大きく肯いた。
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