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68:痛恨
航太郎と辰平は、門のところまで豊を見送った。
「いやー、本当にすみませんでした~。次からはよくよく気を付けますんで、今後ともご贔屓に~」
豊は、普段は言わないようなセリフを口にした。辰平は内心
(余計なことは言うな。早くここから出ろ)
と思いつつ、笑顔で手を振った。
その時、三人がもっとも恐れていた事態が起こった。
米が入っているはずの麻袋が、もぞもぞと動いたのである。
少女はまだ眠っているのか、動いたのはわずか数秒だった。だが、門の歩哨がそれを見逃すはずがなかった。
「おい! その袋、今動いたぞ!」
歩哨は二名おり、そのうちの一人がトラックの荷台に近づいた。
こういう事態に備え、三人は打合せをしていた。打合せでは、航太郎が進み出て
「それにはネズミが入ったままなんです。触らないでください。ネズミは、病気を媒介する恐れがありますからね」
と、威圧的に歩哨を抑える段取りだった。
だが、それより早く、泡を食った豊が叫んだ。
「やっべえ! 起きちまったんじゃねえのか?」
これで、すべての計画が台無しになった。
航太郎と辰平の判断は、迅速で迷いがなかった。
辰平は、航太郎から万が一の時のために手渡されていたスタンガンで、歩哨の一人の動きを封じた。航太郎は、もう一人の喉に体重をかけて肘で打ち込み、気絶させた。
「豊! さっさと車を出せ!」
辰平が、まだ呆然としている豊に向かって叫んだ。
「早く!」
豊は、はっと軽く身震いをした。それから、急いで車のアクセルを踏んだ。
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