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69:刑の執行
結果から言うと、少女をコミュニティに連れていくことは成功した。
だが、航太郎に辰平、それに豊(トラックのナンバーが防犯カメラに映っていたので、そこから足が付いた)は、捕らえられ、即刻裁判に掛けられた。
あの夜、航太郎に鍵を渡した部下が、「三人が逃亡させたのは、敵国のスパイの少女だった」という証言をした。根も葉もない話だったが、部下は裁く側の人々に賄賂などの根回しをしていたため、有力な証言として採用された。
真実を語ると、この部下が、若いのに階級の高い航太郎を妬み、彼を蹴落とすために仕組んだことだったのだが、その真相が明るみに出ることは永遠になかった。
少女のその後もしかりだ。航太郎さえ葬り去ることができれば良かったのだから、その後の追及はなかったかもしれないし、「敵国のスパイ」と証言された以上、捕らえられて亡き者にされてしまったかもしれない。どうなったのか、確実なところはなにも記録に残っていない。
三人は、有罪判決を受けた。刑罰は流刑(かつて廃止された刑だが、日本が軍を保有するようになってから復活した)。
裁判自体も一日もかからない短いものだったが、裁判から刑が執行されるまでも、非常に早急だった。執行前、辰平は母親と連絡を取ることもできなかったし、豊は、妻に会うことも許されなかった。
意識を奪われた状態で、三人の刑は執行された。
次に三人が気付いた時には、どことも知らぬ海辺に流れ着いていた。せめてもの情けで、リュック一つ分の荷物だけ与えられていた。
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