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77:普通の人間になる条件
「てめえ、手加減無しで殴りやがって! なにしやがんだ! 馬鹿力!」
ユタカの右の鼻の穴から、つーと一筋血が流れた。
「黙りなさい! なんと無礼千万な・・・。畜生ですか、あなたは!」
「なんだと!」
「まあまあ」
収拾がつかなくなりそうだったので、タッペイは仕方なく仲裁に入った。
コータローは、高ぶる感情をなんとか抑えながら、ユタカを殴った手の甲を反対の手で撫でさすった。
「では、私もはっきりお答えしましょう。シナコさんは、ある条件が揃えば、普通の人間になるんですよ」
二人は、ぽかんとした。
「ある条件?」
「なんだ、そりゃ?」
サングラスのブリッジを指で押し上げてから、コータローは答えた。
「まず、この島を出ること。それから、自分を本気で愛してくれる相手がいること。この二つの条件が揃えば、彼女は普通の人間になります」
「普通って・・・どうなるの?」
「具体的には、まず、魔法が一切消滅します。それから、この島にいる限り彼女は一定以上の年を取らないのですが、普通の人間と同じ速度で年を重ねるようになります」
「なーんだ。そしたらほんとに、普通の女だな」
ユタカが、己の鼻にティッシュで作った栓を詰めながら言った。
「その通りです」
「ふうん・・・」
タッペイは、浮かない顔で肯いた。
「どうした、タッペイ? 気にかかることでもあるのか?」
「ユタカ、すっごい鼻声だね・・・。うん・・・だって、僕たちは、いつこの島を出られるか、分からないじゃないか」
その場は、一瞬しんとした。
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