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79:コータローの経歴
「なにがおかしいんだよ?」
「いえ・・・あなた方が羨ましいと思って」
「羨ましい?」
「なんだ、そりゃ。皮肉か?」
「いいえ、本心ですよ」
コータローは、背筋を伸ばし、顔をあげた。
「私は士官学校に進み、そこから軍に入隊したわけですが・・・その道を選んだ一番の理由は、軍では濃密な人間関係が構築されると聞いたからなんです。私も、あなた方のように、親友と呼べる友人を作りたかった」
タッペイとユタカは、顔を見合わせた。
それからユタカは、目を半開きにして
「てめえの捻じ曲がった性格じゃ、一生無理だと思うぞ」
と暴言を吐いた。
「なにしろ私は、幼い頃から普通じゃなかった。小学生の時は、全国剣道選抜大会で優勝、中学の時には、全国統一中学生テストでトップの成績、高校の時には、インターハイ陸上400メートル走で大会記録更新。もちろん、士官学校は入学も卒業も首席。軍に入隊してからは、あれよあれよという間に昇級して、二十代では異例の一佐幹部・・・」
コータローは、悩まし気に頭を左右に振った。
「こんな私に、普通の友人などできるはずがない」
タッペイもユタカも、どこか呆れた表情でコータローの話を聞いていた。
「コータロー・・・貴様、それは自慢か?」
「いえいえ、まさか、私の経歴のほんの一部をお話したまでです」
「へー、そいつはいいこと聞いたなー」
抑揚なく受け応えをするユタカ。
「まあ、とにかく、私が言いたかったのは、私は親友が欲しくて軍人になったということです。決して、人を殺したり、傷つけたりしたかったわけではないんですよ」
タッペイとユタカは、目をぱちくりさせた。
それから、二人して思わず笑みをこぼした。
「それはそうだな。違いねえ」
「僕も。分かってるよ」
コータローは、二人の反応を見て、初めて嬉しそうに表情を和らげた。
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