空色には届かない

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書類を書いたりまとめたりしているうちに、あっという間に昼食を食べる時間になった。 「先輩、昼食食べに行きませんか?」 「これがあるから」 そう言って先輩が指したのはサプリメント。 それでは食べた気にならないんじゃないかと思ったが、いつものことなので俺は一人で食堂へ向かう。 周りからの声が気にならなくなったのは小学生の頃だったか、それともロクハラに出会った頃だったか。 こそこそ喋る声は、学生でも社会人でもあまり変わらないのだと思いながら食堂で買ったカツ丼を食べる。 この食堂でいちばんの人気メニューだ。 「神崎くーん、一緒に食べよう!」 右手を大きく振りながら、左手でお盆に乗せたカツ丼と水をこぼさないようにバランスをとっている、奇妙なところで器用な課長がやって来た。 「課長、静かにしないと周りに迷惑ですよ」 部下として上司を注意する。 すでに、周りの注目が課長と俺に集まっているので無駄な気もしなくはなかったが。 「いいじゃないか。成績優秀、眉目秀麗、大金持ちで上からの覚えもいい君と食事できるんだから」 「何を言っているのかわかりません」 成績優秀というか逮捕する数が多いのは先輩のお陰が大きいし、眉目秀麗なのは画家である母のお陰だ。 大金持ちなのは父のお陰。 上からの覚えがいいのは、単なる運だ。 何も自分でできない俺といても、いいことなど一つもないのに課長はよく絡んでくる。 「まあまあ、一緒に食べようじゃないか」 と言うと、課長は勝手に俺の隣に座ってしまう。 俺はもう諦めて、カツ丼を食べる。 と、課長が話しかけてきた。 口の端にご飯粒がついているが、気にしていないようだ。 「神崎くん、今日の夜は打ち上げだよ! 第一犯罪課で飲みに行くから、神崎くんも来てね!」 あのヤマがよようやく終わったからだろう。 でも、行く義理もない。 「嫌ですよ。ウサギの面倒もあるし」 「ウサギ?」 元はウツギだということを忘れていた。 説明が面倒くさい。 「あ、いえ、最近ウサギを飼い始めたんですよ」 課長だからこれくらいの誤魔化しで通じるだろう。 案の定、 「意外だね。あの少年のこともそうだし、最近育てることにご執心なの?」 とあっさり信じたようだ。 でも、俺は一応だけど訂正しておく。 「少年の方は課長が押し付けたんですけどね」 「あはは。いやぁ、あはは」 そんなことを話しながら、いつの間にか俺と課長はカツ丼を食べ終わっていた。 そして、また言いくるめられて打ち上げに参加することになったのだった。 この課長、口だけは長けているのだ。
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