空色には届かない

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「送りましょうか、先輩?」 「いや、一人れ帰れる。それおりあのしょうえんのいんあいをしれ早く帰るようい」 いや、一人で帰れる。 それよりあの少年の心配をして早く帰るように。 先輩はこのような言葉を発したのだろう。 反省会兼打ち上げという名のただひたすら飲むだけの会が終わり、俺は先輩を送ろうか考えていた。 先輩は酒に弱いからだ。 すでに呂律がおかしくなっている。 「本当に大丈夫ですか?」 「もいろんだろも」 もちろんだとも。 先輩はそう言ったつもりのようだったが、言えてない。 俺は仕方なくタクシーを呼んでそこに先輩を押し込めると、運転手にチップを多めに渡して送り出す。 もう、あと三十分ほどで日付が変わりそうだった。 一応、警察の人間なので、飲酒運転にならないように車はロクハラの駐車場に置いてきた。 だから、俺もタクシーをつかまえて乗り込む。 日付がぎりぎり変わるか変わらないかの瀬戸際の頃、タクシーの運転手に近道を教えたりしてからようやく家にたどり着いた。 炭酸は、ロクハラにある変わった自動販売機で買ってあるけれど、ウサギはもう寝ているだろうから明日、冷やした状態で渡そうと思った。 マンションのエントランスに入る。 ここの住人たちは、いつも夜遅くまで飲んでいることが多いのに今日はやけに静かだと思った時。 「っ!?」 管理人がいるはずのところに、管理人がいなかった。 そこにあるのは、管理人の死体だった。 頭に一発、胸に一発、銃弾をくらったような穴が空いているのでもう生きてはいないだろう。 今、俺は警察官が日常的に持つことを許可されている拳銃しか持っていないことを確認してから管理人の死体に近づき、脈を確認する。 死んでいた。 悪い予感がした。 ちょうど、ウサギが来た時期に。 しかも、銃弾の大きさが、ウサギの事件のときに見つかった銃弾ととても似ている。 エレベーターを待つのももどかしいが、最上階だから階段へ行くよりも早いだろう。 いつもよりエレベーターの動きが遅く感じられて、エレベーターはついに最上階へ着いた。 エレベーターの中に、血が一滴、落ちている。 「ウサギ、大丈夫かっ!?」 ドアを開けて声をかけるが、返事がない。 その代わり、室内にウサギ以外の気配と濃厚な血の匂いを感じた。 ウサギの部屋へ走る。 どうしてこんな大きい家に住んでしまったのだろう。 場違いな後悔を思い浮かべながら、鍵がかかっていなかったウサギの部屋のドアを開ける。 そこには、黒ずくめの男がウサギに銃を向けつつ、ウサギの衣服を剥がしかけていた。
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