空色には届かない

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不思議とウサギが生きていることを確認すると、俺はすぐに落ち着いて男を見ることができた。 こういうことがあるかもしれないから、相手は執念深いから、課長は俺にウサギを預けたというのに。 「ウサギを……、その少年を離せ」 俺は男に言った。 拳銃を向けながら。 男は少しだけ怯んだようだったが、俺が持っているのが小さめの拳銃だったことが災いしたのか俺に銃を向けた。 「う、撃たれたくなかったらそこを退け!」 そちらこそ。 そう言いたい衝動にかられたが、結局俺は何も言わずに男の銃を俺の銃で撃つ。 男の銃が、部屋の隅へ飛んでいった。 ようやく、男はこの状況を理解したらしく、 「た、助けてくれっ、何でもするから!」 と叫んだ。 俺は何も言わずに男に近づき、怯んで一歩、後ろへ下がった男の首に手を振り下ろす。 その手刀が上手くきまったようで、男は気絶した。 自分のために身につけた武術がロクハラでこんなに役に立つとは思っていなかった。 そう思いながら、押し入れから登山用のロープを出して男が武器を隠し持っていないかチェックしてから縛り上げる。 「ウサギ、平気か?」 俺は、衣服が乱れてもまだ無表情のウサギに訊いた。 場所は移して、リビング。 男は物置部屋に放りこんでおいた。 「……なんで助けてくれるの?」 「当たり前だろ?」 ウサギはとても不思議そうな顔をした。 ふと、その顔を見て俺は気づいてしまった。 ウサギには助けてくれる人間がいなかったのだと。 「僕の全部を知っても助けてくれるの?」 ウサギには助けてくれる人なんていなかった。 だから、助けた俺のことを信じていいのか疑った方がいいのか、わからないんだ。 もし、否と答えてしまったらウサギが俺の前から消える気がした。 「もちろん」 俺は、そう答えた。 弟のようにウサギのことを失いたくない。 あとから思えば、軽々しい口約束、浅はかな一目惚れ、その程度なのかもしれないけど。 「僕の全部を背負えるの?」 「ああ、もちろんだ」 俺はそう答えて。 ウサギを、助けた。 そのときのウサギの表情は、笑ったような泣いたような希望が見えたような絶望を感じたような、いろいろな感情をごちゃ混ぜにしたような表情だった。 それでも、そのとき。 ウサギが綺麗だと思った。 だから、気づくと俺はウサギを抱きしめていた。 それが仕方のないことなのだと自分に言い訳をして。 弟に重ねていたのかもしれないけど。 ウサギを失いたくないと、そう思った。
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