届かない月の唄

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「これも、違うな」 俺の小さい頃の服をウサギに合わせてみるのだが、ウサギには合わない。 というか、どんな服が合うのかわからない。 「ウサギ、どんな服着てたんだ?」 「……下着」 うん、それは着るだろうけど。 心の中でも心の外でも思いっきり苦笑しつつ、俺は結局、適当なシャツと適当なデニムを渡した。 ウサギが着替えている間、部屋の外に出る。 そして、ウサギが部屋から出てきた。 「お、似合ってる」 「……ほんと?」 「ああ、めちゃくちゃ似合ってる」 嬉しそうにウサギが笑った。 こんな風に素直に笑うこともできるんだな、と考えると俺もウサギみたいに笑っていた。 それから、俺も着替えたり俺の着替えにウサギがついてくるのを阻止したり財布を持ったりしてスーパーへ向かった。 スーパーといってもこの辺りにあるからなのか、有機野菜やらオーガニックやらが多いスーパーだ。 近所のマダムが行くのだろう。 「ウサギ、何か欲しいものあるか?」 「しゅわしゅわ」 素直に可愛いと思う。 弟を可愛がるような気持ちでいる俺はいわゆるブラコンの類いに入るのだろうか。 「えっと、じゃあこれをケースで、それからこれとそれもケースで買おう」 「……多い」 ウサギに冷静な声で諭されてしまったので、合計で十本ほどに留めておいた。 卵はもちろん、ウサギが気にしていたお菓子やら足りなくなっていた日用品やらを買う。 レジで会計をしてスーパーを出ると、そこには俺とウサギを待ち構えたように、普段とは違いメガネを書けて理系っぽくなった文月さんがいた。 「文月さん、こんにちは」 「……こんにちは」 「こんにちは、神崎の子と少年」 挨拶を交わして、俺とウサギは文月さんの横を通りすぎようとしたのに文月さんは俺を、いやウサギのことをじっと見ている。 「どうしたんですか?」 やや警戒して文月さんに訊く。 一応、拳銃は持っているから大丈夫だと思うけど。 「いや、その子は何者なのかなぁと思ったんだよ」 「居候です」 俺はきっぱりと言って立ち去ろうとする。 が、ウサギの手を引こうとしたのにウサギが動かない。 自然に、俺も立ち止まる。 「ウサギ、どうした?」 そう訊きながら振り返ってウサギの顔を見る。 ……ウサギの顔には、怯えが浮かんでいた。 ウサギの視線の先にいるのは文月さんだけれど、文月さんとウサギには何の関わりもないはずだ。 「ウサギ、行くぞ」 半ば強制的にウサギを引きずっていく。 荷物を積んで、車に乗り込み、車のドアを閉める。 窓の外に文月さんが笑顔で手を振っているのが見えた。
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