届かない月の唄

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「ごちそうさまでした」 「……ごちそうさま」 俺とウサギは、あのあと無事もなく家に帰りオムライスを食べ終わっていた。 オムライスの出来は、我ながら上出来だと思う。 「ウサギ、このあとはどうするんだ?」 「……昼寝」 そう言うと、ウサギは眠そうにふらふらしながら自室へ向かってしまった。 俺は、エプロンを脱いでウサギを見送る。 部屋のドアが閉まる、バタンという音が聞こえてから俺は拳銃と、弾と、携帯電話を持って家を出た。 行き先は、文月さんの部屋。 ウサギとの関わりを訊くためだった。 「文月さん、こんにちは」 エレベーターで二十二階まで降りて文月さんの部屋の前に来て、インターホンを押して言う。 ドアを開けた文月さんは、相変わらず遊び人みたいだがどこか厭世的な雰囲気をまとっていた。 「どうしたんだい、神崎の子?」 「ウサギに……、いえウヅキについて訊きたいんです」 「中で話そう」 文月さんはそう言ってドアを大きく開いた。 ドアは大きく開け放たれているのに拒まれているような気がしたのは、気のせいではないだろう。 俺はモデルルームみたいなリビングに通された。 綺麗でお洒落な部屋だが、生活感がない。 「何飲みたい?」 「何でもいいです」 そう言葉を返して、文月さんを見る。 いたって普通で取り乱した雰囲気はない。 どちらかと言えば、余裕さえ見られる表情だ。 文月さんは珈琲を二杯置いて、俺が座っているソファーと向かい合っている椅子に座った。 「それで、今日は何の用で来たんだい?」 文月さんが、優雅に足を組みつつ言った。 さっきかけていたメガネは外されている。 「ウヅキのことです」 こういう相手に回りくどい手は使えない。 ロクハラでの経験がためになる。 「あの少年かい?」 「誤魔化さないでください。ウヅキのことを、ウヅキがここに来る前から知っていましたよね?」 手強い相手になるだろう。 でも、助けると言った以上ウサギが怖がる相手をそのままにしてはおけなかった。 「どうしてだい?」 「ウヅキは文月さんに対して怯えていました」 昼間のウサギの様子を思い出す。 あれは、狩られかけた獲物が自分を襲った相手を見るような怯えて怯んだ目だ。 「それだけじゃないか」 文月さんは、あくまでもはぐらかすつもりらしい。 でも。 今度こそ助けるから。 「知っていますよね?」 文月さんを睨みながらそう言った。 文月さんが、素直に話してくれることを願いながら。 拳銃の存在を、感じていた。
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