届かない月の唄

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案の定、そこには怯える子供たちと銃を構えた犯人が合計で四人、そして犯人に押さえられたウサギがいた。 「だ、誰だ!」 犯人の一人が言った。 この声は男性だろう。 銃や他の装備を見ても、どれも高価なものだ。 「警察だ。子供たちを解放しろ」 「銃を離せ。撃つぞ」 俺の言葉にそう返したのは、最初の声とは違い落ち着いた男の声だった。 リーダーかもしれない。 「こちらこそ」 そう返すが、四対一では勝ち目は少ないだろう。 こういうときは、暇で射撃の訓練をずっとしていた一年前の自分を褒めてやりたくなる。 でも、拳銃は二丁しか持っていないから、一回に撃てるのは二人だけなのに相手は四人。 とりあえず周りを見回していると、ウサギと目が合った。 そうだ、ウサギがいるんだ。 いいところを見せなくちゃいけない。 「ここで回れ右をするなら見逃してやるぞ」 冷静な男が言った。 回れ右をしたらすぐに背中を撃つつもりのくせに。 そう言いたいのをこらえて左手でもう一丁の拳銃を取り出し、置いてあった花瓶を撃つ。 まばたきをしている間に見逃してしまうような時間で。 花瓶に全員が注目した間に、一丁で二人ずつ、計四人の銃や手を撃っていく。 血が出ていたような気もするが、もう覚えていない。 さらに、たくさんの足音がしていたような気もする。 でも、そのときの俺にはウサギしか目に入らなかった。 「ウサギ!」 「……睦月」 ウサギのもとへ向かう。 たった五歩でさえ、遠く思えた。 そして、五歩歩いた先にはウサギがいた。 綺麗な瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。 でも、変わらずウサギがそこにいた。 「ウサギ、助けに来た」 そう言って、ウサギを抱き締める。 いつかの時のように、ずっと、ぎゅっと。 守りたいと思ったウサギを。 助けたいと願ったウサギを。 確かに、助けられたのだ。 細い手が、そろそろと俺の背中に回される。 「……嬉しい」 ウサギが、耳元でつぶやいた。 俺も助けられて、嬉しい。 ウサギがここにいることが、生きていることが、俺の目の前にいることが本当に嬉しかった。 こんな感覚が初めてで、戸惑ってしまう。 そのあと入ってきた先輩は、抱き合う俺とウサギを見てとても驚いていたらしい。
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