歌を唄うみにくい白鳥

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黄色が目立つが、その他にもさまざまな色でカラフルに飾り付けられた門をくぐる。 陽気な音楽と楽しそうな家族連れやカップルが、遊園地に来たという気分を助長させる。 「ウサギ、何に乗る?」 「……これ」 三十秒ほどパンフレットをにらんで、ウサギが決めたのはコーヒーカップだった。 コーヒーカップに乗ってぐるぐると回る、乗り物酔いしやすい人には天敵のあれだ。 「結構、ぐるぐる回るけど平気か?」 「大丈夫、吐くのは慣れてる」 そういうことじゃないんだけどな、と思いつつ、少し並んでコーヒーカップに乗った。 思っていたよりも回って、軽く酔う。 ウサギも軽く酔ったようで、二人で遊園地内のカフェで少し休憩してからメリーゴーランドに乗った。 もちろん、ウサギだけ。 俺はというと、回ってくるユニコーンに乗ったウサギの姿をカメラで写真におさめる。 「ウサギ、こっち向け!」 「……ピース」 ユニコーンに掴まっていない方の手でウサギがピースをしたので、思わず連写した。 そのあとは、この遊園地でいちばん人気のアトラクションであるジェットコースターに乗ったり、パレードを見たり、この遊園地のマスコットキャラクターと遊んだり、お化け屋敷に行ったりした。 ちなみに最近のお化け屋敷の精度は高い。 「ウサギ、後ろに」 「……うわあっ」 ウサギにギュっとされたときは、頼られているんだなと素直に嬉しかったりもした。 お化け屋敷を出ると、すでに夕方だった。 そして、お化け屋敷のせいなのかウサギが疲れている様子だったので休憩する。 「ウサギ、何か食べるか?」 「チュロス食べたい」 メニューを指してウサギが言った。 プレーンとココア、ストロベリー味の三種類があるらしく全部買ってこようと思いながら、ウサギに知らない人についていくなと言って買いに行く。 少し並んでからチュロスを三つと、トロピカルソーダなるものを買ってウサギのところへ戻る。 いや、正確にはウサギのいたところへ戻る。 そのテーブルには、すでにウサギの姿がなかった。 「ウサギ?」 席は確かに間違えていない。 多少、不思議に思ったものの、トイレにでも行ったのかと思い三十分待つことにした。 三十分、きっちり待ったがウサギは戻らない。 迷子だろうか。 店員に訊いてみるが、人が多いのもあるのか知らないと言われ、近くの席にいた人はもういなかった。 迷子センターに行ったが、ウサギはいなかったので放送をしてもらったもののウサギは出てこない。 トイレに売店、アトラクションの方まで探したが、ウサギの姿はどこにもなかった。 最悪の可能性が頭をよぎり、それを消すように俺はウサギを探し回った。
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