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「え、どういうことですか!?」
広いとは言えない会議室に、俺の声が響いた。
防音の壁にその声が呑み込まれていく。
驚いたのも仕方がないはずだ。
俺の所属する部署の課長に「あの少年を君のところで預かってくれないか」と言われたのだから。
と、課長が畳み掛ける。
「君、高層マンションの最上階に一人暮らしだから部屋いっぱい余っているでしょ?」
「確かにそうですけど」
確かに半分くらいは使ってないですけど。
いや、そうじゃなくて。
「施設が決まるまでの間だから」
確かにあの少年の行き先には困るだろうけど。
「いや、それでも」
俺は断固拒否する。
あんな綺麗な少年を置いておけない。
「どうしてそこまで拒否するのかな?」
「俺には扱えません」
課長の質問に、俺は正直にそう答えた。
どこか異質な少年を扱えるほど俺はいい人じゃない。
カウンセラーに頼んだ方がいいはずだ。
「平気だって」
なのに、課長はそう言った。
俺には扱える自信はないのだが。
「信頼できる人物に預けたいんだよ」
「本音は?」
「手続きめんどい」
「でしょうね」
課長の言葉、特に耳に心地よい言葉は信用してはいけない、というのが俺たちの部署の鉄則だ。
しかも、手続きめんどいって。
「ね、待遇上げるから」
「そういうことじゃなくてですね」
待遇はどちらかと言えば今のままでいい。
あまり上がっても、ただの贔屓になるからだ。
が、それをわかるような繊細な課長ではない。
「まあ、もう決定事項だから」
ついに、課長はドヤ顔でそう言った。
本人に相談する前に決定事項になっているとか、ブラックじゃないのだろうか。
まあ、仕事時間がブラックなのは間違いないけど。
「……はぁ、わかりましたよ」
「ありがとう、恩に着る」
「仇で返されそうですけどね」
俺はしぶしぶ了承して恩に着られた。
軽口を返しながら。
「じゃあね」
とへらへら手を振る課長に見送られながら俺は会議室を後にした。
俺が向かったのは、未成年や被害者からの話を聞くための保護室という名の準取調室である。
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