空色には届かない

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俺の職場は、いわゆる警察。 と言っても、実態は公安に近い第六警察取締部。 通称ロクハラ。 平安時代に天皇家や貴族を取り締まった六波羅探題(ろくはらたんだい)と仕事内容が似ているからそう呼ばれているらしい。 というのも、俺たちの仕事は主に上流階級の取締が専門で、いつもそいつらを監視しているからだ。 ロクハラの仕事は監視と逮捕。 その中でもいくつかに別れていて、俺が所属しているのが第一犯罪課なのだけれど。 その課のトップがさっきの課長なのだ。 だから、上司に俺は従うしかないのだが、俺はあの少年の冷めた瞳が苦手だった。 保護室へ向かうのが憂鬱なのも仕方がないだろう。 「失礼します」 「あ、入って。課長から連絡は受けている」 保護室にいたのは、その少年と白衣を着た女性。 少年が俺と暮らすことになった少年で、だとすれば白衣の女性はロクハラの人間には見えないのでカウンセラーがそれに似た職業の人物だろう。 ただ、課長を課長と呼んだから課長と知り合いの人物だという可能性がある。 ……人一人と会うだけでそこまで考えてしまうのは職業柄だと諦めていた。 俺は二人から二つ離れたパイプ椅子に座った。 「第一犯罪課の神崎(かんざき)睦月(むつき)です。よろしくお願いします」 「カウンセラーの水無月(みなづき)(れい)だ。よろしく頼むよ?」 水無月玲。 黒い髪を後ろで一つにくくり、白衣を着て足を組んでいるその女性はそう名乗った。 自己紹介が終わると、早速、水無月はクリアファイルに入った書類をいくつか取り出した。 その間、少年は微動だにしない。 美しさも相まって人形に見える。 「名前はウヅキ。本名は私には伝えられていない。様々なストレスを与えられたらしく、そのせいで上手く話せない時があるな。さらに強いストレスのせいで脳──海馬が少し縮んでいるが、特別に問題があるレベルではないから安心しろ」 「……えっと」 「さらに詳しい診察結果はこの紙に書いてある……なんだ、何か問題でもあったか?」 次々と言われたため、そして水無月の見た目から受ける可憐な印象と話す口調が合わなかったため少し混乱した。 それに、カウンセラーではなく医者ではないのか。 「いえ、問題はありません」 「じゃあ私は忙しいのでもう行く。では、次のカウンセリングの時にでもまた会おう」 水無月はそう言い残すと、さっさと保護室を出ていってしまった。 書類と俺と少年──ウヅキだけが部屋に取り残される。 途端に気まずくなるのは、俺の一方的な感情だろうか。 「えっと、ウヅ……」 「ウヅキ以外の名前で」 俺がとりあえず話しかけようとすると遮られた。 言われたことが一瞬、わからなかった。 ウヅキ以外の名前で呼べ、ということだろうか。 「えっと……、ウサギ?」 「はぁっ!?」 ウヅキ、つまり卯月からウサギを連想してしまった。 ウサギは怒りというよりも呆気にとられた表情をしていたので、ウヅキをウサギと呼ぶことにする。 それに、ウヅキと呼ばれたくない理由もわかる。 「ウサギ、家へ行くぞ」 「……え?」 「ウサギは俺の家で一時的に預かられることになった。だから、とりあえず駐車場へ行く」 「……」 ウサギが俺に無言だがついてきたので、俺はひとまず安心して駐車場へと向かった。
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