空色には届かない

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「ウサギ、着いたぞ」 「……ウサギやめろ」 俺の家に着いた時には、もう空は暗くなり始めていた。 車から俺が降りると、しぶしぶといった様子だがウサギも車を降りたのでドアを閉める。 車のキーをポケットに入れながら、ウサギはやめた方がいいのだろうかいややめない、と考えつつ歩く。 駐車場からエレベーターで最上階まで行くと、タワーマンションの最上階にある俺の家に着いた。 このタワーマンションはもともと親の持ち物で、職場に近いからという理由でここに住んでいる。 外から見ると灰色の無機質な四角い建物だが、内装は各々で自由にしていいため、豪華な造りのところもあればほとんど何も置いていない部屋もある。 そして俺の家は、ショールームみたいな家具を集めたショールームみたいな部屋だ。 「……ここがお前の家なの?」 ウサギがぽつりと言った。 驚いているのかよくわからない表情というか無表情だから、俺は何と返答すればいいのか迷った。 そして結局、 「悪いか?」 と答えることにした。 その答えを聞いたウサギは、さっさと靴を脱いで玄関からすぐに見えるリビングのソファーに座った。 そして、体育座りをしながらテレビをつけている。 ウサギの髪が白に近いのと、着ている服が白っぽいのとで、丸まっている姿がウサギに見えて笑い出しそうになったが、嫌われても困るのでやめた。 「何か飲むか?」 「……」 「何か食べるか?」 「……」 「何か言いたいことは?」 「……」 完璧にスルーされてしまった。 少しは返事をしてくれてもいいんじゃないかとは思うものの、多少のPTSDがあるのかもしれないから仕方ないのだと思う。 あとで、水無月からの資料を読まねば。 そう思いつつ、俺は靴を脱いでキッチンへ向かう。 少し迷った末に、冷蔵庫から炭酸飲料を取り出す。 二つのグラスに注いで持ってから、テーブルに置いてウサギが座っていない方のソファーに座る。 「飲めよ」 俺も炭酸を飲みながら、ウサギにそう声をかける。 ウサギは、恐る恐るグラスを手に取って、 「……薬」 とつぶやいた。 水無月か誰かに薬でも渡されて飲むように言われたのかと思ったが、気づいた。 ウサギは今まで、飲み物には薬を入れられ続けていたんだと。 「ただの炭酸だ」 「……」 ウサギは炭酸を飲んだ。 そして、一口飲むとグラスを見つめてまた一口飲んだ。 俺は、ウサギが飲んでいるのを見ながらどこか安心して、明日はケーキでも買って来ようかと暢気なことを考えていた。
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