空色には届かない

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車を走らせてしばらく経つと、近くにある開放的なビルとは違い来る者を拒むようなオーラを纏った建物が現れる。 これが俺の職場だ。 俺が入る三年前に建て直したばかりらしく、まだピカピカなのにどこか廃れた雰囲気なのは何故なのだろう。 きっと中にいるのがおっさんばかりだからだろう。 そんな中で、俺は最年少でロクハラに入った。 お世話になった人に誘ってもらい、なし崩し的にここに入ってからもう一年ほど経っただろうか。 文月さんとの会話の影響なのか、昔のことを思い出したりしながら、いつも通りのロビーを通ってエレベーターに乗る。 と、水無月がいた。 「おはようございます、水無月さん」 俺が声をかけると、 「ああ、おはよう」 と、ぶっきらぼうに返事をされた。 寝起きが悪かったりするのだろうか。 水無月とは、そのあとすぐにエレベーターから降りるまでの間にさえ会話がなかったから、寝起きが悪いのか、もしくは元々の性格なのだろうと思った。 俺は、特に気にすることもなく目的の階で降りる。 「あ、神崎くーん!」 課長の声がしたので声がした方と反対の方向へむかおうとすると、ドタドタと足音がして背中を思いっきり叩かれた。 「やめてくださいよ、課長」 「そんな冷たくしないでよ、神崎くん」 そう言いながらも俺の背中をバシバシ叩いてくる課長は、全く反省していないのだろう。 俺は、呆れたので課長を置いて歩き出す。 「ねえねえ、神崎くん」 「……」 「神崎くん、相手してくれないと泣いちゃうぞ?」 「……」 「えーん、えーん」 「……なんですか、課長」 まとわりついてくる課長がめんどくさかったので、俺は溜め息をつきながら課長に言った。 課長は嬉しそうに、 「神崎くん、あの少年は元気?」 と訊いてきた。 俺は質問の中身がまともだったので少々驚く。 普段は、米派かパン派か、とか好きな人のタイプは、とかくだらないことしか訊いてこないからだ。 「もちろん元気ですよ。炭酸飲料を元気に飲んでいましたし、食事もとりましたし」 「それはよかった」 課長はそう言うと笑って去っていった。 何をしたかったんだあの人は。 そう口に出すのをこらえつつ、俺は開けっ放しのドアをくぐって第一犯罪課の部屋に入った。
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