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歌を唄うみにくい白鳥
ウサギの施設襲撃事件は、圧力でもかかったのか、そのあと意外にもすんなりと終わることができた。
犯人の四人組のうち、リーダー格にあたるあの冷静な男は太ももを、他の一人は腕を撃ってしまっていたらしいが、命に別状はないので刑を待つことになる。
文月さんのことを説明するのも大変だった。
しばらくは報告書やら始末書やらに追われたが、一週間ほど経つと、すでに日常を取り戻していた。
そして、ウサギと俺はというと。
「ウサギ、ただいま」
「おかえり、睦月」
必死に課長に頼み込んで、それから神崎グループの権力も少しだけ使った結果、もう一度ウサギと暮らすことができた。
とても幸せで充実している。
「ウサギ、今日はマンゴーサイダー買ってきた」
「……飲む」
ウサギにそれを渡すと、とても美味しそうにごくごくと飲んでいたので、わざわざ駅前まで行って買ってきた甲斐があると思った。
ウサギが幸せそうで本当によかった。
表情もだんだん柔らかくなっているし、ガリガリだった体も年相応になってきてますます綺麗になっている。
「明日は休みなんだけど、どこか行きたいところでもあるか?」
「……遊園地」
「ちょうど余ったチケットがあるから、すぐにでも行けるな、ウサギ!」
この国でいちばん大きい遊園地のチケットを買っていて本当によかったと思う。
チケットを買うのに並ぶのは時間の無駄だ。
ウサギと一緒に遊ぶなら少しでも長い時間遊びたい。
ちなみに、映画館と動物園のチケットも用意していたのだが、それは墓場まで持っていく秘密だ。
「ウサギ、何か持っていきたいものでもあるか?」
ウサギが寝てから荷物を準備しておこうと思ってウサギにそう訊いてみた。
するとウサギは、
「クッション」
と答えたので、そんなにクッションが気に入ったのならお土産でクッションを大量に買おうと思った。
そして月が沈んで太陽が昇った次の日。
俺のリュックサック一つとウサギ用の小さめのリュックサックを一つ用意していたので、起きてから身支度を終えるとすぐに家を出ることができた。
車に乗って遊園地へと向かう。
「楽しみだな、ウサギ」
「うん」
いつもと同じようにうなずいている。
のではなく、言葉の端に喜びが混ざっているのを俺は聞き逃さなかった。
俺は鼻歌を歌いながら車を運転する。
ウサギが途中で鼻歌に混ざってきたときは、あまりの可愛さに気絶しそうになった。
が、何事もなく一時間ほどで遊園地に着いた。
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