「分かれ道・・・」

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「参ったな…」 夕暮れ時の山中で自転車旅行中の友人は呟いた。目の前には、畑や作業小屋が朽ち果てた様子で広がっている。 スマホのマップでは現在位置は一般道から外れ、何処にも繋がっていない山の中とある。 目的地に繫がる道を出るには、一度下山する必要がある。 正直な所、暗くなってからの移動は避けたい。そのための近道として、この 山道を登ったのだった。徐々に暗くなる山道は人気が一向にない。 目の前の作業小屋は妙な雰囲気を醸し出しており、非常に不気味だ。 (仕方ない、山を降りるか…) そう思う彼の目に、少し離れた小屋から出てきた老人の姿が映った。 友人はほっとして、その老人に近づき、声をかけた。 「あの、すいません。この山を登って、中居町に繫がる道とかに出ますか?」 作業着を着た老人は耳に片手を当て、申し訳ないという風に、片方の手を上げる。 友人は大きな声で先程の言葉を復唱した。 「あーっ、中居の道ね。ある、ある!」 「ほんとですかっ!?」 友人の声に老人も顔を綻ばせ、言葉を続ける。 「この道を登っていくと、細い道に出る。そこを150メートル程行ったら、別の 農道に繫がるからの。そこを右折して、行けば大きな道路に出る。後は道なりに行けば、 中居町だよ」 「ありがとうございます!」 「右に行くんだよ!左はいっちゃいかんぞ!」 「はい!」 老人の言葉に、友人は返事をして、自転車を漕ぐ。老人の言った道は正直獣道に近いモノで全身が蜘蛛の巣だらけ、ぬかるみだらけで、いつ落ちても可笑しくなかった。 しかし、進んでいくと先程は違う農道が現れ、友人はほっと安心した。 (後はここを右に…) と思う彼は少し左側の道が気になった。木々の間から電柱や住居のような建物がチラチラと見える。右側は更に上へ登る道。左は下り道、スマホの地図の向きも左の方が近道の様子だ。 (住居があるなら、道路に繫がる道だって近い筈だし、方角的にも合ってるんだけど…) そう考えるが、老人の言葉を思い出し、結局、友人は右の道を…教えられた通りの道を進む事にした。 山を沿うように曲がりくねった道を登ると、視界が開け、先程の左側の道を進んだ先が見えた。点々とした住居がいくつも並び、かつては村だった事がわかる。 その家々の窓枠が抜け、暗い穴のようになった窓から“何かが”こちらを見ていた。 一つではない。全ての家の窓跡から同じ視線を感じ、友人は老人の言葉に従って 良かったと心の底から思った…(終)
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