第三章 町?街?え?

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 俺たちは、並んでいた馬車に付いていた護衛と町から出てきた守衛に囲まれている。しかし、囲んでいる方が震えているのは、ディアナが怖いのだろう。  並んでいる列の最後尾につける時に、大丈夫だと思って、エンジンを吹かしたのが問題だったのだろうか?  なんにせよ、武器を向けられているのは間違いない。  リーゼが降りて説明してくると言っていたが、それも不安を煽る要因にしかなっていない。 『マスター』 「なんだ?」 『ディアナを降りるときには、エミリアをお持ちください』 「わかった。でも、エミリアのバッテリーは大丈夫なのか?」 『はい。大丈夫です。マルスとの繋がりがあれば、魔力が供給されます。マスターからの供給もありますので離れなければバッテリー切れの心配はありません』 「(魔力?)そうか、それなら大丈夫そうだな」 『はい』  外を見ていると、リーゼが俺に手招きしている。”来い”ということだろうか?  ドアを開けて外に出る。  今まで感じられなかったが、潮の香りが鼻孔をくすぐる。潮の香りは、異世界も同じなのだな。どこか、故郷を感じられる。似ても似つかない田舎町だが、海は海で同じなのだろう。 「ヤス。ユーラット守衛隊の隊長のイザーク」 「こんにちは、イザークさん。ヤスといいます」 「それは、君が動かしているのか?」  いきなり本題ですか? 「そうです。ディアナといいまして、神殿に有ったアーティファクトです」  槍の先端で恐る恐るといった感じで、ディアナを突いている。今、エンジンかけたら面白そうだけど、確実に面倒な事になりそうだから止めておこう。 「危険は無いのだな」 「はい。大丈夫です」 「そうか・・・ヤス。君は、なんで神殿に行ったのだ?ユーラットを通らずにどうやって行った?」 「・・・わかりません。記憶が無いのです。リーゼさんと出会う前もディアナや神殿の知識は有りましたが、それ以外は自分の名前が”ヤス”である事以外・・・。全く思い出すことができません。ディアナと一緒に彷徨っていたときに、リーゼさんがゴブリンに襲われていたので・・・その・・・無我夢中で、よく覚えていないのです。説明ができなくて申し訳ない」  少し頭を下げるようにして説明をする。 「ふむぅ・・・。悪い人間ではなさそうだな」 「ね。ね。だから言ったでしょ?こんなに可愛い子と一緒に居たのに、指一本触れないどころか、自分の寝床を譲ってくれたのだよ?」  リーゼ。それ逆効果?だと思うのだけどな。  え?違うの?イザークさんは何かウンウンとうなずいている。そんなにリーゼって町の人気者なの? 「ヤス殿。まずは、リーゼを助けてくれた事に関してお礼を申し上げる」 「いや、成り行きでしたし、私も危ない状況でしたので、お互い様だと思っています」 「町に入るには、審査を受けてもらう必要がありますが、その・・・”でぃあな”ですか?町中に、入れる事が・・・。あっ大きさという意味ですが、入られないかも知れないのです」  あぁ申し訳なさそうにしていたのはそういう事か・・・。 「大丈夫です。ディアナは、俺が降りた時点で鍵がかかる仕組みになっています。俺以外には動かす事ができなくなります。街の近くに置かせて貰えれば十分です」 「そうですか、それを聞いて安心した」 『マスター。雄の個体名イザークに聞いてください。近隣に、ゴブリンの様な魔物が出る場所がないかと?』 「そうだ、イザークさん。街の近隣に、ゴブリンの様な魔物が出る場所はありますか?」 「え?あぁ少し離れた場所だけど、海岸に降りる道とかにたまに出るぞ?あとは、魔の森(フェレンの森)は別にすると、ここの反対側の道は頻繁に使う者が居ないから魔物が出る事があるぞ?」 「ありがとうございます」 『マスター。ディアナをそこまで移動してください。そちらが、神殿に向かう道です。ゴブリンやコボルト程度の魔物でしたら、ディアナの自動モードで討伐が可能です』 「あ!イザークさん。あまり人が使わないのでしたら、その場所にディアナを移動したいのですが・・・。許可していただけないでしょうか?」 「ちょっとまってな」 「はい」  よく見ると、審査待ちになっている人たちが並び始めている。  町の方から、イザークさんを呼んでいる声が聞こえている。  イラッとするくらいにかわいいドヤ顔をしながらリーゼが戻ってきた。 「ね。大丈夫だったでしょ」 「あぁありがとう!リーゼのおかげだな!お礼にこれやるよ」  ポケットに入っていた、サ○マドロップを缶ごと取り出して、リーゼに投げる。 「え?え?これって、前に口に入れられた物?」 「そうだ。飴ってお菓子だぞ?有るだろう?」 「”あめ”?空から振ってくる?」 「あぁ面倒だ。そういう物だと思ってくれ、蓋をこうやって開ければ、中に同じものが入っているからな」 「へぇ・・・この缶・・・。すごいね」  そっちかよ  まぁ日本語が書かれているから、アーティファクト扱いになってしまうのだろうけどな。  そこで、イザークさんを待っている間に、ユーラットやこの国の事をいろいろと聞いた。  半分は宿屋の宣伝になっていたが、それはそれで”よし”としておこう。  わかったのは、紛争・・・戦争と言ってもいいかも知れないが戦いがある。人族同士の戦争だけではなく、魔物の集団との戦争も有るのだと言うこと。ユーラットは辺境の町なので、戦火が迫ってくる事がないが、徴兵や物資の提供などの命令が来ることがある。  あとは、町の上役たちの名前だが正直覚えきれない。  エミリアが、自分が覚えますから大丈夫と言っていたので、記憶部分はエミリアに任せる事にした。  そうか、俺知力がHだったな。 「おぉ待たせたな。ヤス。この水晶に触れてくれ」 「これは?」 「ステータスや称号を見るものだ」  ステータスはわかるけど、称号?そんな物はなかったと思うぞ? 「称号?」 「なんだ、お前、称号の事も忘れているのか?」 「申し訳ないが、教えてもらえると助かる」 「そうだな。細かい事は教会にでも行って聞いてくれ、簡単に説明すると、何かしらの行動を取ると、それが神々に認められると称号が着くことになる。これで第一称号しか見られないが、それが犯罪行為につながるような称号の場合は、門を通すわけには行かない。これは、他の街でも同じだ」 「へぇ。でも、そうなると、第二称号に犯罪につながるような称号が有っても見つけられないよな?大丈夫なのか?」 「そうだが、それは俺たちの様な門番が、怪しいと思ったら、屯所に連れて行って、領主の館にある称号の水晶で確認する事になる。称号の水晶に触れれば、全ての称号がわかるからな。それに、ヤスの様に身分証がない者だけだからな。ギルドで身分証を発行して貰えれば、身分はギルドが保証する事になるからな。お前も、ギルドに登録しておけば、毎回調べられる事はないからな」 「あぁわかった」  水晶に触る。  称号が無い事から、問題は無いだろうという認識だ。  少なくても道路交通法違反・・・スピード違反・・・以外の犯罪行為はしていないと思う。  水晶が、青色に光る。 「よ・・・し?問題ないな」 「どうした?」 「いや、称号がない人間なんて初めてだったからな。産まれたばかりでも無い限りありえないと教わっていたからな」 「そうなのか?」  リーゼの方を向くと、うなずいている。  確かに、俺はこちらの世界に来たばかりで、産まれたばかりだと考えれば称号が無いのも当然だよな?問題が有るようなら、マルスに相談すればいい・・・。よな?  問題は何もわからないけど・・・問題はなさそうだ。  来てしまった異世界だ。楽しんでいこう!  初めての町だし、リーゼ以外の人とも出会う事ができるだろう。  考えてもしょうがないようだし、なるようになるよな。  なんだか、地球に居るよりも楽しい事ができそうな感じがしてきた!
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