第九章 神殿の価値

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第四話 ヤスのワガママ 「マルス。魚が食べたい」 『マスター。個体名セバス・セバスチャンに命じて、迷宮区で採取出来ます』 「それもいいが・・・。そうだ、湖の村に行こう。あそこなら、湖の恵みを食べられるだろう?頼まれた荷物もある」 『了』  ヤスは思い立ったら吉日。一人で移動する。場所も解っている。  S660の出番だ。ナンバーを660にしている。異世界で召喚したときにナンバーが外れていたので、ヤスはイワンに注文をだしてわざわざ黄色のナンバーを作成して取り付けている。地名が書かれている場所は、”神殿”と日本語で書いた。  ヤスの乗るアーティファクトには、ナンバープレートが取り付けられているの。  最初に、リーゼが自分のFITにも欲しいと言い出した。イワンに注文を出した。サイズは、日本と同じにして表示方法は、リーゼの好きにさせた。モンキーにつけたのを、カイルに見られて、カイルとイチカと子どもたちが乗るモンキーにもナンバーを付けた。アーティファクトにはナンバーが必要だと言って、全部のアーティファクトに付けられた。カートにもナンバーが付けられて、パーソナライズされた物は、個人識別が出来るようなナンバーを付けて、それ以外には識別子と連番での区分とした。カートでは特に喜ばれた。ヤスにパーソナライズを許された者は少ない。だが、ナンバーが付いた事で、ある程度の専有が可能になった。  そして、ヤスの思いつきでポケバイもカート場に姿を現した。  カートのエンジンは、4ストロークの180ccだ。ポケバイは、2ストロークの49ccを積んでいる。イワンたちもやっとエンジンに手を出し始めた。何台か、実験と解体のためにドワーフの工房に預けたのが良かったようだ。メンテナンスもドワーフたちが行えるようになっている。 「マルス。S660の準備は出来ているか?」 『問題はありません』 「出せるようにしておいてくれ、それから、ルーサとヴェストと念の為エアハルトに筋を通しておいてくれ」 『すでに告知をしてあります』 「助かる。さて、久しぶりに飛ばすか?西門から行けば、トーアヴェルデに繋がる場所に行けるよな?」 『はい。ディアナにナビをさせます』 「わかった」  ヤスは地下駐車場に停まっているS660に乗り込み火をいれる。  ハンドルを握ると独特なエンジンの振動が腕に伝わる。  嬉しくなったヤスは、クラッチを繋いでアクセスを踏み込む。タイヤマークを残して、ヤスは西門に向かった。 「ディアナ。西門から、トーアヴァルデに抜ける道を通る。案内をしてくれ、途中で誰か道を使っていたら警告を表示」 ”了”  ナビに文字が表示される。地図に切り替わる。  基本は一直線だが、分かれ道や退避場がある。それらも表示される。同時に、次のカーブの詳細が表示されて、速度からのカウントダウンもされている。ヤスは、ディアナのカウントダウンに合わせて、速度を調整する。  競っているわけではないが、気分的にギリギリを攻めたいと思っていたのだ。  ヤスは、誰にもすれ違わないで、トーアヴァルデに到着した。  そこから、関所の森に入る方法は、関所を帝国側に抜けてから、入るのが楽なのだが、ヤスが選んだのは、ローンロットから関所の森に入る方法だ。  ローンロットは人が増え始めている。  アーティファクトで、神殿やアシュリやユーラットから物資を運んできている。そして、周辺から集まった商人が物資を持って近隣に運んでいる。  ヤスは、エアハルトに挨拶だけして、関所の森に入った。  マルスの指示で、ローンロットから湖の村には道が出来ている。  ヤスの、運転する。S660は、速度を上げて、湖の村に急いだ。  時間をあまり気にしていなかったが、日の出で起きて、日の出で眠る様な生活をしている村に暗くなってから到着しては迷惑になる。  村民も、ヤスの事は知っている。したがって、変わった形のアーティファクトに乗った人物が近づいてきたら、ヤスだと認識して村民が出迎えてもおかしくないのだ。 「マルス!」 『はい。マスター』 「湖の村の村長に連絡してくれ、”出迎えは必要ない。村長に頼みがある”と伝えてくれ」 『了。魚料理を所望と伝えますか?』 「そうだな。土産がもらえないか聞いておいてくれ」 『了』  5分後に、ナビの予定通りに、ヤスは湖の村に到着した。  村長が門の前で待っていた。マルスから連絡を受けて慌てたようだ。 「ヤス様」 「急にすまんな」 「いえ、村はヤス様の物です」 「あぁまぁ。いいや。村長」 「はい。魚をご所望だと伺いました。丁度、夕方の漁から帰ってきたばかりです。どうしましょうか?」 「そうだな。村民で食べる以外で少しだけ貰えれば嬉しい。そうだ。燻製も始めたのだよな。貰えるか?」 「かしこまりました」  村長は、村の中に入っていって、マルスから連絡があった時点で夫人に指示を出して、ヤスに持たせる魚や加工品を集めていた。  子供ではモテそうにないサイズの木箱を二つヤスの前に置いた。 「ヤス様?」 「この中から選べばいい?」 「え?あっ・・・。いえ、この二箱をどうぞお持ちください」 「いいの?」 「はい。村の余り物でもうしわけありません」  ヤスは、木箱を除いて嬉しそうな表情をする。  思っていた以上に良さそうだ。魚の鮮度もよい。ヤスが命じたように、氷の魔道具で冷やされている。燻製も、見た感じはうまそうだ。 「そうか、ありがとう。トランクに積んでくれ」 「はい」  村長は、木箱を持ってきた村民に命令してアーティファクトの近くまで持たせた。  ヤスは、トランクを開けた。 「ヤス様。アーティファクトの中に、すでに木箱がありまして」 「あぁそうだった。すまん。先に、積んである物を降ろしてくれ」 「「はい」」  男たちは、ヤスの命令通りに荷物を降ろしてから、木箱を積み込んだ。  ヤスの命令で、木箱の大きさは統一している。大中小と分けているが基本は中サイズを使うように伝えている。魔道具の設置効率を考えた結果だ。 「村長!」 「はい」 「その木箱は、魚のお礼だ。受け取ってくれ、いや、受け取ってもらわないと困る。アーティファクトの中に入らないからな!」 「え?」 「イワンたちが作った三級品だ。帝国側の連中にも分けてやって欲しい。あと、漁具が欲しいと言っていただろう。試しに、作らせた物を持ってきた、試作品だけど使ってみてくれ、不都合はまとめてイワンに伝えてくれ」  ヤスは、S660に乗り込んで、走り去ってしまった。  残された村長は、ヤスから渡された3級品の酒精を大切に村に持ち帰った。すぐに、帝国側の村に合図をして、船で来てもらった。そして、ヤスが言っていたとおりに、ヤスから貰った酒精と試作品を平等に分けた。  ヤスが、湖の村に出かけようと考えた時に、マルスから三級品の酒精と漁具の試作品を持っていくように言われたのだ。  代金は渡そうとしても受け取らないのは解っていたので、村が欲しがる物を渡そうと思ったのだ。  ヤスとしても、物を運んで報酬として魚と加工品を得るのは嬉しかった。  神殿に戻ってきた時には、すっかり暗くなっていたが、起きていたイワンとルーサとディトリッヒを誘って、加工品の品評会を行った。  湖の村では、特産品を欲しがっていたので、魚の加工品を作らせてみたのだ。燻製は、ヤスが教えた。ツナ缶もどきを作らせてみた。酒飲みには、燻製が受けた。特に、ルーサが気に入って、アシュリに持って帰ると言い出した。  ヤスは、刺し身が食べられただけで満足だったので、加工品はイワンとルーサとディトリッヒが消費した。  オイル漬けは、ディトリッヒが好んだ。味よりも保存性能が気になっているようで、実験してみると言っていた。  イワンは、ヤスが食べていた刺し身を恐る恐る食べたが、ヤウが買い付けてきた米で作った酒精との相性が抜群に良くて気に入った。  ヤスも最初は、湖の魚だから生食には向かないだろうと考えていたのだが、マルスから一切問題はないと言われて、刺し身にして食べた。  品評会(宴会)は朝まで続いた。ミーシャがディトリッヒを探しに来なければ、昼まで飲んでいたかもしれない。  ヤスは、ミーシャとドーリスとサンドラから次からは絶対に呼んでくださいと言われて、うなずくしか出来なかった。
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