第十章 エルフの里

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第二十二話 ルーサ 「旦那!」  おい。おい。 「ルーサ?お前が来たのか?」 「おぉ。セバス殿から連絡を貰って、誰が来るのか揉めたけど、俺が勝ち取った」 「ん?」 「”大将が困っている”と聞いたぞ?」 「そうだな。困っているが、ルーサが来るほどの事ではないぞ?」 「別に、誰が来てもよかったのなら、俺でもよかったのだろう?それに、大型のアーティファクトが必須だと聞いたぞ?」  たしかに、最初の段階では必要がなかったが、襲撃者が増えてしまった。今では、バスでも狭い。トラックの荷台に詰め込む形がベストだな。  ルーサが乗ってきたアーティファクトは、トラックだ。  トレーラーは、ルーサを含めてどうしてもダメだった。そもそも、ハーフトレーラーでも、こっちの人間は運転ができない。  今回は、神殿で大物を輸送する時に使っている。バンボディタイプだ。10トンクラスで来てくれている。 「そうだな。このタイプだと、ルーサとローンロットにいる奴らくらいか?」 「そうだな。カイルやイチカは別方面に進んでいるからな・・・。あと、イワンだと足が届かない」  たしかに、イワンは種族的な問題で、足が届かない。  神殿の中の移動を行うために、ターレを使っているけど、シュールな絵面だけど、便利だと好評だ。ドワーフたちには、ターレを大量に渡して、エンジンは無理だったが、モーターもどきはすでに作っている。それで、ターレもどきを作って、集積所(ローンロット)で使っている。 「イワンは・・・。そうか、ルーサ。俺に黙っていることはあるか?」 「え?旦那?」  あぁ何かを隠しているな? 「セバスから、何を頼まれた?」  正確には、神殿にいるマルスからセバス経由で何かを頼まれたのだろう。 「旦那・・・。あぁぁもう直球で言おう」 「どうした?」 「『神殿では問題は発生しておりません』が伝言で、お願いは『人が増えすぎています』です。『早めの帰還をお願いします』だ」 「ん?増えすぎている?アシュリやトーアヴェルデやローンロットでもか?」 「あぁウエッジヴァイクでも、増えている。特に、帝国から流民が止まらない。ヴェストが対応をしているが、神殿では受け入れを停止している」 「神殿以外では?」 「サンドラから、辺境伯領での受け入れを始めているけど、辺境伯は辺境伯で王国内からの移民で溢れている」 「そりゃぁ大変だな」 「旦那!」 「ん?神殿は、ゲートを通過できれば、受け入れる。それぞれの場所も受け入れているのだろう?俺に他に何ができる?」 「あぁそうだ。セバスがいうには、旦那の物資を運ぶ必要らしい。ディアナが動かせれば、物資の輸送がだいぶ楽ができる」 「あぁそうか、移民や難民や流民の違いはわからないけど、物流が止まっているのだな」 「俺たちもやっているが、追いつかない」 「まだアーティファクトはあるのだろう?」 「ある。今、神殿の住民で、素質がある奴を・・・。旦那の許可があれば、動かせる」 「わかった。許可を出す。それと、エアハルトに聞いてくれ、集積所を他にも作られないか?辺境伯に相談すればいいだろう。集積場まで、物を運んで、そこから、行商人に荷物を運ばせれば多少はよくなるだろう」 「わかった。旦那!それで、俺の役目は?」 「そうだ。捕えたエルフ族を輸送してくれ、セバスに渡せばいい」 「え?旦那。何を?エルフ?」 「あぁ襲われたから、捕えた。賠償ができないらしいから、身柄を押さえた。エルフ族の長老には、承諾を貰っている」 「わかった。それじゃアーティファクトを持ってくる」 「あぁ必要ない。縛り付けて転がしておいた。半日程度なら起きないだろう。餌も必要ない。死んでも問題はない」 「・・・。わかった。旦那に敵対した奴らなのだろう?セバスに渡していいのか?殺してしまうかもしれないぞ?」 「大丈夫だ」  ルーサから近況報告を聞いて、マルスに命じて、トラックの荷台に捕えていたエルフたちを吐き出す。  眠らせてから、水と食料を弱そうな奴の近くに置いた。あとは、勝手にやってくれることを祈ろう。それから、灯りを付けておこう。自分たちの状態が把握できた方が、()()できるだろう。文字が読めるか解らないけど、これから行われることを記載しておいてやろう。俺の優しさだ。  簡単に死ねると思うなよ。リーゼを犯して殺すと行ったやつには、自分が口にした苦しみを与えてやろう。死なないようにして、男娼として使い続けてやろう。他の捕えたやつらも喜んで使ってくれるだろう。意識も壊れないように、ケアをしっかりとしてやる。あぁ前は使えないように、切り落としてやろう。自分の物を食べる栄誉を与えてやる。  ルーサがドン引きしているけど、気のせいだろう。  解りやすい場所に、張り付けておく、これで、自分たちの運命が判るだろう。自殺なんて、つまらない方法を選んだ場合には、死ねない(アンデット)状態にして、神殿で働いてもらおう。侵入者との戦闘で、死んでも生き返る状態で使い続ければいい。 「さて、ルーサ。これで、全部だ。頼む」 「おぉ!わかった」  ルーサが、運転席に乗り込んで窓を開ける。  少しだけ粗野な感じがするルーサが乗るには、トラックは似合いすぎている。今の俺では、少しだけ・・・。本当に、少しだけ威厳が足りない。俺の主観だから、他の奴に聞いていないが・・・。  FITに戻ると、リーゼがむくれていた。 「リーゼ?」 「ヤス!僕も連れて行ってよ!」 「ルーサの奴から近況を聞いただけで、面白い話はないぞ?」 「それでも!ヤスと一緒に居たかった!」 「わかった。わかった。悪かった。それで?」  ラフネスを見ると、ラフネスは少しだけぐったりしている。交渉が長引いたのか? 「ヤス様」 「どうした?」 「・・・」  なぜか、リーゼを見た。  リーゼがわがままを言って、ラフネスが止めていた。そんな構図か? 「ヤス様。馬車の準備ができました。あと、アーティファクトは結界の中に入れて欲しいそうです」 「ん?入れていいのか?」 「はい。『このまま、神殿の主が使っているアーティファクトを外に置いておくと、何人が捕えられるかわからない』が理由のようです」  そうだよな。  近づくだけならいいが、盗もうとしたり、攻撃性のスキルを使ったり、問題がある行動をした時点で捕えられる。そして、そのまま神殿に連れ帰ることになっている。これ以上、エルフから”奴隷”になるような者たちを出したくないのだろう。 「わかった。それで、このまま進んでいいのか?」 「お願いします。リーゼ様?」 「ん?何?僕?」 「リーゼ。準備はいいよな?」 「あっそういうこと?大丈夫だよ。ヤス。行こう!」  すっかり、機嫌が戻ったリーゼに苦笑しながら、FITを動かす。  運転席に座っていたリーゼは、助手席に移動している。器用に運転席から車内で助手席に移動する。  エンジンに火を入れる。  どんなエンジンでも、この瞬間が好きだ。目覚める瞬間に立ち会う感じがする。  さて、浸っていてもしょうがない。 「ラフネス。それで、どこに行けばいい?」 「案内をします」 「頼む。あと、アーティファクトを止めておく場所も指示してくれ」 「わかりました」  ラフネスの指示の通りに、動かした。  結界を越える時に、マルスが違和感を訴えた。  どうやら、俺たちの想像があったようだ。  景色が変わる。  森の中に一本の道がある。  景色が変わってすぐの場所に、馬車が待っていた。  その横に、FITを停める。  馬車からは、交渉を担当した長老が降りて来る。 「神殿の主殿。お待たせしました」 「大丈夫だ」 「ありがとうございます。それから、我らの同胞が無礼を働いてしまって、申し訳ない。襲撃者は約定通りに処分していただいて構わない」 「わかった。貴殿からの謝意を受け取ろう」 「ありがとうございます。襲撃者たちの派閥を粛清いたしました」 「そうか、わかった。数日になるとは思うが、世話になる」 「その言葉、嬉しく思います。リーゼ様。お待ちしておりました」 「え?僕?あっうん。よろしく」  リーゼの顔を見ると、解っているとは思えない。  それでこそリーゼだ。  リーゼの頭を撫でていると、長老やラフネスが嬉しそうな表情を浮かべている。理由は解らないが、間違っては居ないようだ。
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