第十章 エルフの里

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第二十五話 鍵  いつまでも、神樹を見上げていても何も解決しない。  解っているが、見上げる首が痛くなっても見て居たい気持ちにさせる。  神秘的な風景は、TVや本で見てきたが、一線を画す美しさがある。言葉で表すとチープになってしまうが、他に表現できる言葉が見つからない。 「ヤス。ヤス」 「なんだ?」 「すごいね」 「そうだな」  リーゼも同じ気持ちのようだ。  どんなに言葉を飾っても、チープに思えてしまう。 『(・・・)神殿の主様』  ん?リーゼのはずがない。  マルスも、俺を”神殿の主”とは呼ばない。 「リーゼ。何か、聞こえたか?」 「え?ボク?ううん。何も?」  やはり、リーゼには聞こえていない。  マルスも何か察知をしていれば、言ってくるはずだ。それがないという事は、マルスよりも機能が上か? 『アルファ神殿の主様』  そもそも、”アルファ”神殿? 「誰だ!」 「ヤス!」  リーゼがびっくりした表情で俺を見る。  実際に、問い詰めるような声を出してしまった。非は俺にある。リーゼの腕を取って引き寄せる。攻撃の可能性を考慮しなければならない。俺の雰囲気に、眷属が俺とリーゼを取り囲むように警戒をする。 『失礼いたしました。デルタ神殿のコアです』 「コア?」 「ヤス。誰と話をしているの?」 「リーゼには聞こえないのか?」 『主様。コアと繋がりがある方にだけ・・・』 「そうか、わかった。それで、マルスとの会話ができないのは?」 『マルスというのが、アルファ神殿のコアならば、デルタ神殿の領域では活動が出来ません』 「ん?そうなると、俺が、何も制限を受けないのは?」 「ヤス?」  そうか、リーゼにも説明をしておいたほうが・・・。  本当に、リーゼだけでよかった。エルフたちが居たら面倒なことになっていた。懐柔なのか、脅迫なのか解らないけど、俺への攻勢・・・。圧力が増しただろう。神殿に帰るのが大変になっていた可能性だってある。  デルタ神殿のコアには、待ってもらって、リーゼに俺が置かれている状況を伝えた。 「え?ヤスが、この神殿の主になるの?」 「違う。違う。違うよな?」 「ボクに聞かれても解らないよ」 『違います』 「違うそうだ」 「へぇまたコアから連絡?」 「あぁ」 「それで、コアは、なんでヤスに話しかけてきたの?」 「・・・。聞いてない。なんでだ?」  どこに話しかけていいのか解らないから、リーゼの横に”存在”していると思って、話しかける。 『まずは、神殿まで来ていただけないでしょうか?』 「リーゼ。神殿まで来て欲しい。らしい」 「行こう!ボクたちも、神殿に行く必要があるよね?」 「そうだな」 『案内をいたします』  目の前に道ができた。  表現がおかしい気がするが、他に表現する言葉がない。  木々が自ら左右に分かれて、道が出来上がった。よくわからないが、コアが案内をしてくれると言っているのだし、この道を進めばいいのだろう。 「ヤス?」 「コアが案内をしてくれるようだ」 「でも・・・」 「わかっている。デルタ神殿のコア。魔物に襲われたら倒していいのだよな?」 『はい。すでに弱っております。アルファ神殿の主様に仕えている者たちで容易に倒せます』 「魔物を倒していいようだ」  眷属たちに告げると、襲っては来ないが、近くにいるだけで不安になる。  魔物を先行して倒すように指示を出す。  マルスの結界は有効になっているのだろうか? 『アルファ神殿の主様の周辺には、結界が張られています』 「破られていないのか?」 『健在です』 「リーゼ。俺から離れるなよ。俺の周りにはマルスが張った結界がある」 「うん!」  リーゼが俺の腕にしがみつく。  そこまで接近する必要はないのだけど、近くに居た方が安心だ。  木々のアーチ?を通り抜けていく、ときに近くで、ときに遠くで、先頭音が聞こえる。圧勝しているのが、音からでも解る。魔物を駆逐している。コアに許可を貰っているから、本当に全部を駆逐してもいいのだろう。  もしかしたら、エルフの里に張られた結界の意味は・・・。  考えても無駄だな。もう少しで答えが解るのだし、神殿に到着したらコアが教えてくれるだろう。  こんな面倒な事をしているのか・・・。  ラフネスは知らなかっただろう。それでは、ラナは?アフネスは?誰が、どこまで知っていて、この茶番を行ったのか?  エルフの里にいる長老衆は、加害者であり犠牲者だ。  エルフの里で暮らしている者たちも同じだ。俺たちを襲撃してきた者たちも、正しい情報が与えられていたら、違った考えに・・・。あれは、無駄だな。今は、考えから外してもいいだろう。 「ヤス。すごいね」 「そうだな」  歩きやすいように、土だけでなく草が敷き詰められている。芝生ではないが、気を使っているのが解る。  かなりの距離があるように見えたが、歩いてみると3分程度で終着点が見えてきた。  あそこから、また歩くことになるのか?  木々のアーチが途絶える。 「あぁぁ・・・」 「すごい」  大木?全体が見えない。 『もう少しだけ近づいてください』 「ヤス!」 「どうした?」 「ボクにも、声が聞こえた」 『最後の結界を越えました。本当の姿が見えていると思います』 「「本当の姿?」」  俺とリーゼの声が重なる。  あぁそういう・・・。 「ヤス?」 「リーゼ。上を見てみろ」 「上?あっ」  上を見ればすぐに解る。  遠目で見た時には、青々と茂っていた”葉の上に乗る木々”が枯れ始めているように見える。 「弱っているのか?」 『神殿は大丈夫です』 「神殿は?」「え?」 『神殿の入口まで・・・。お願いいたします』  どうやら、何か問題が発生しているようだ。  案内というか、草が道を作る。  そのうえを歩いて、大木の麓?まで移動する。  大きさに似つかわしくない神殿のような物が存在している。  最後の結界か?  神殿というよりも、祠と表現したほうが正しいサイズだ。 『ようこそ、アルファ神殿の主様。そして、巫女の末裔』 「巫女の末裔?神殿の所有を決める鍵ではないのか?」 『巫女の末裔です。力は(ピーガー)』 「ん?」 『禁則事項です』  ん?今までとは違う、マシンボイスのような声が聞こえた。  禁則?ということは、リーゼの秘密に関わることは?  聞き直しても無駄なのだろう。  いろいろ気になるが・・・。 「俺か、巫女の末裔・・・。リーゼに何かして欲しいことがあるのだろう?」 『すでに実行していただいております』 「ん?」 「ヤス。魔物の討伐!」 「そうなのか?」 『はい』  ここから、コアの説明が始まった。  エルフたちが恐れていた”入られなくなる”問題は、簡単に解決できる物だ。  少しだけ考えてみる。簡単だ。簡単な事だが・・・・。簡単ではない。やることは単純だが、現状では難しい。難しいから・・・。 「ヤス?」 「俺が、神殿で行ったことをやればいい。でも、現状では、エルフたちでは、不可能だ」 「うん。ボクが最低ライン?」 「眷属からの情報では、デイトリッヒくらいは・・・」 「・・・。それは、無理だ。ヤスが派遣すれば?」 「それも一つの方法だけど、距離の問題がある。それに、神殿の連中・・・。今、リーゼが頭に浮かんだメンツが来たとして・・・」 「ダメだね。喧嘩して終わり」 「だろう」  コアがエルフたちを追い出したのは、発生した魔物が討伐されなくなってしまったからだ。  その魔物たちも、神殿が閉じられた事で、魔力の循環が滞って、数を減らした。数が減った事で、魔物たちはさらに生存競争が活発になり、弱体した。この辺りの説明は、コアは言葉を濁したから何か方法があるのだろう。  弱体したといっても、現在のエルフたちが勝てるほど弱くはない。数で押し切ればいいのだが、その数が用意できなくなってしまった。コアも考え違いをしていた、外側の結界を越えた者なら戻ってくるのは問題がないと思っていた。エルフたちは、結界を越えて戻って来られなくなった。  そして、魔物の討伐が行えなくなり、コアは結界を強めて、魔物が里に出ないようにしてしまった。  現状の理解はできた。  ヤスの眷属たちが、魔物を駆逐している。すべての魔物は無理だとしても、強い魔物から討伐していけば、エルフたちでも勝てる程度にはなる。コアが心配しているのが、神殿の周りには、魔物が発生する。時に、エルフの里は”森”の中に作られている。  エルフたちは、最初から”神殿に至る”鍵を自分たちで持っていた。  鍵の存在に気が付かなかったのだ。
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