第十章 エルフの里

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第二十九話 エルフ  エルフの里まで戻ってきた。  歓迎されている雰囲気は皆無だが、俺とリーゼが行った事は、ラフネスから皆に伝えられているのだろう。嫉妬や嫌悪の視線は消えていないが、前の様に侮蔑を含んだ視線は少なくなっている。  ”助けてやった”から、感謝しろとは言わないが・・・。本当に、この種族を延命させたのは正しかったのか疑問に感じてしまう。  そして、コアからある事実を教えられた。当然の事だが、考えてもいなかった。このエルフの里には、ハイエルフを含めて、300名程度が住んでいる。外に作られた村には、里に入ることができないエルフたちが100名程度は居るようだ。外に出ているアフネスのような存在も居るのだが、それでも種として1,000名程度では存続が難しい。考えれば、解ることだが、なぜか”エルフの里”がここまでだと思ってしまった。  コアの話では、他の”氏族”との交易どころか、連絡も途絶えてしまっているようだ。 「マリア。無理だ。俺は、他の”氏族”に伝手がない」 「それは、(コア)が力をつければ、連絡が可能です」 「なぁマリア。お前、エルフと俺のやり取りを記憶しているよな?」 「はい」  もう一度、マリアの表情を窺うように観察するが、何を言われているのか解らない表情をしている。 「はぁ・・・。あのな。俺は、エルフたちに殺されそうになった、アーティファクトを盗まれそうになった、暴言を吐かれたのは一度や二度ではない」 「はい」  その、それがどうした?って、表情がむかつく、もしかしたら、マルスも依り代を持ったら、こんな表情をするのか?  いやないな。セバスは、マルスだ。あいつは、受け答えは冷淡だが、リーゼともしっかりと話ができる。他の者からも苦情らしい苦情を聞いたことがない。これは、コアの能力なのだろう。 「俺は・・・。そうだな。正直にいうと、エルフと言う種族にあまり関わりたくない。一人一人は、いい奴も悪い奴も、好きになれる奴も嫌いな奴もできるだろうが、集団となったエルフ族とはかかわりは最小限にしたい。行商に関しても、本来なら断りたいのだが、王国にもメリットがある取引だから受諾しただけだ。お前たち、エルフ族との付き合いを続けるために行う方便ではない。まだ、”言いたい”ことは山のようにあるが、あえて付け加えるのなら、リーゼが居なかったら、リーゼの母親が眠っていなければ、お前ごと・・・。俺はこのエルフの里を蹂躙してしまいたいと思った。眷属たちを呼び寄せて、全部を更地にしてしまえば、すべてが終わるからな」 「神殿の主様」 「いいか、エルフの問題は、エルフで解決しろ、俺を頼るな」 「・・・。わかりました」  コアは、引いたが、まだ”何か”を依頼したい雰囲気を持っている。  いくら頼まれても、他のエルフ族を助けたりしない。”勝手にしろ”と、いう感情しかない。不愉快な思いをしてまで助ける意味もない。俺のメリットも皆無だ。神殿で完結している俺が外に手を広げたのは、あまりにもこの世界の物流が弱いと感じたからだ。別に、救おうとか、なんとかしようとか、そんな気持ちはない。俺が広げた手で救える者たちが居たのが嬉しいだけだ。  それに、始まりは別にして、今回はリーゼの為だ。  もう少し考えれば、今、俺たちが受けているメリット(交換機)を確定させるためだ。コア(マリア)も何も言ってこなかった。情報収集のためにも、交換機は確保しておいたほうがいいだろう。 「ヤス?」 「どうした?」 「うん。明日には帰るのだよね?」 「そうだな。伸ばすか?」 「ううん。違う。わがままを言っていい?」 「全部を叶えるとは言えないけど、いいぞ」 「うん。僕、もう一度だけママに挨拶をして帰りたい。ダメ?」  マリアを見ると、嬉しそうにしている。  リーゼがコアの近くに着てくれるのが嬉しいのだろう。 「そうだな。挨拶は大事だな」 「うん!」  リーゼが俺に抱きついてくるので、しっかりと抱きしめて頭を撫でてやる。嬉しそうにしているリーゼは、そのままにして、マリアを見る。 「マリア」 「はい」 「リーゼの母親が眠る場所まで、馬車が通られる道を作れるか?」 「幅は?」 「すれ違える必要はない」 「可能です。まだ、力が溜まっていませんので、道を繋ぐだけです」 「マルスから、力を受け取れ、可能なのだろう?」 「よろしいのですか?」 「乗ってきたのが、FITだから、あまり道が悪いと、スタックする」 「スタック?」 「こっちの話だ。マルスからの協力があれば可能か?」 「はい。すでに、協力を取り付けて、作成に入りました。10分ほどお待ちください」  10分か・・・。 「リーゼ。FITで移動する」 「うん!」  話を聞いていたのか、すでにリーゼは歩き始めている。  FITが置かれている場所だ。  本当に、エルフは・・・。 『マルス』 『結界を解除しますか?』 『必要ない。俺と、リーゼを通してくれ』 『了』  結界が張られている位置は、見れば解る。  エルフの誰かが攻撃を行ったのだろう、火で攻撃を行ったのか、下草が燃えている。はっきりと解るくらいだから、高位のスキルを使ったのだろう。それでも、破られない結界もすごいが、それでも諦めない。彼らは、何を求めて、そこまで本気になっているのか、理解ができない。剣で切りつけたのだろうか、折れた剣が無造作に捨ててある。  今回は、マルスに捕えるように言っていないが、前回まで捕えて、首輪をされて、手枷をされて、足にも重りをつけられて、口枷をされて連れていかれた奴らを見ただろうに・・・。  里に商人が戻ってきたと言っていたので、戻ってきた商人と一緒に外に出ていたエルフか、商人の護衛がしでかしたのだろう。  見せしめは一度行えば十分だろう。これ以上は、意味がない。俺の負担が増えるだけで、旨味はない。エルフの奴隷を抱えても、俺は嬉しくない。それも、少しだけ頭のネジがぶっ飛んだ男の奴隷を増やしても、労働力にはならない。戦力としても、あまり期待ができない。  FITの周りに散らばる現実という名前の惨状をむなしく見ていると、リーゼが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。 「ヤス」  これは、わかる。 「ダメだ」 「え?」  そんな顔をしても、運転は任せられない。  コア(マリア)が作った道なら素直にまっすぐになっている可能性が高いけど、マルスが手伝って・・・。主導した道なら、いやらしいカーブくらいは作っているだろう。速度が出すぎないようになるのはいいが、運転が難しいコースは俺しか楽しめない。  カートかモンキーが有れば、リーゼに運転させてもいいと思うが、FITはダメだ。帰りの足が無くなってしまう。 「運転したいのだろうけど、ダメだ」 「・・・。うぅぅぅ。わかった」  リーゼの頭を撫でてから、助手席に座らせる。 「マルス。道はどうだ?」 『準備ができています。舗装はできていません』 「わかった。ナビは可能か?」 『可能です。速度超過の懸念があるので、適度にコーナーを作ってあります』 「わかった」  FITに乗り込んで、結界の発動を弱める。 「ラフネス」 「はい」 「リーゼと、墓参りをしてから帰る。帰りは、ここに寄らない」 「わかりました。マリア様は?」 「ん?マリアは、ラフネスと一緒に居るのだろう?」  マリアを見ると頷いているので、この場所に残って、巫女としての仕事を行うようだ。  表向きとしては、状況が整理されたうえに、前よりは風通しがよくなった。愚か者は、まだ残っているようだが、淘汰される。と、思いたい。  ナビには、道が表示される。  到着予定は40分程度だ。 「ラフネス。マリア。俺たちは、神殿に帰る。後は、行商で来る者に任せる」 「わかりました。ありがとうございます」  ラフネスは、FITの周りを見て、まだ愚か者が居たことに気が付いたのだろう。俺が、言及しないことや、誰も捕えていないことから、見逃されたのだと考えたのだろう。  アリアは、ラフネスと残ると言っているが、コアの本体に近づけば話が通じる。実際に、向こうに到着したら話しかけてくるのだろう。
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