第十章 エルフの里

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第三十七話 受諾  リーゼに状況を説明していると、向こうにも動きが有ったようだ。  姫様と、従者の一人が、馬車から出てきて、こちらに向かってきた。  姫騎士は、完全には納得していないようだが、姫様に従うと決めたようだ。神殿に居る間は、姫騎士ヒルダには注意が必要だな。姫様と従者は、住民との問題は大丈夫そうだが、ヒルダは軋轢を産みそうだ。姫様が抑えてくれるといいのだけど、あの手の忠誠心多寡で、思慮がない人間は、沸点が低いと相場が決まっている。自分の正義を信じて疑わない者ほど厄介な存在だ。多種多様な種族と考え方が融合している神殿には、一つの正義だけで語れるほどシンプルな者は少ない。皆が何かしらの矛盾を抱えている。 「リーゼ。向こうの話が終わったようだ。話を聞いてくる」 「うん!」 「マルス。神殿に、この場所の情報と、中型のトラックと、小型のバスを持ってくるように手配してくれ」 『了』 「リーゼ。一緒に行くことになると思う」 「わかった」  不満を漏らすのかと思ったけど、リーゼは受け入れてくれるようだ。 「ねぇヤス。さっき、アーティファクトの輸送を指示していたよね?」 「あぁ」 「僕のモンキーも運んでくれない?」 「そうだな。問題になりそうな奴らを先に呼んでしまうか?」 「え?」 「帝国の姫だからな。ルーサ―とカイルとイチカを呼んで、カイルとイチカのモンキーも積んで来ればいい。遠出の仕事の練習になるだろう?」 「うん」 『マルス!』 『是』  マルスが、把握して情報をナビに流し始める。  問題はなさそうだ。  リーゼのモンキーも運んでくれる。  カイルとイチカだけだが、ルーサに連れてこさせる。ルーサには、トラックを、ルーサの所に居る者で、バスの運転ができる者を手配する。  セバスの名前があるのは、帝国の姫への対応か? 「問題はない。手配を頼む」 『了』  俺とマルスのやり取りを聞いていた?リーゼが嬉しそうにしている。  頭を撫でてやると、さらに嬉しそうにする。  FITの周りには、マルスが結界を展開している。  結界の手前まで来て、待っていることを選んだようだ。結界で、FITの認識が難しい状態になっている。完全に、解らなくなっているのではないので、”ある”と解っていれば、認識はできる。 「リーゼ。話を聞いてくる」 「うん!」  FITから降りる。ドアを閉めると、音が周りに響いた。 『マルス。結界の解除』 『了』  結界が解除されると、俺とFITの場所や姿の、認識ができたのだろう。 「神殿の主様」 「話し合いは終わったようだな」  オリビアにそう告げると、少しだけ困った表情をしてから頷いた。  一緒に来ている者は、メイド服を着ているが、”従者ルカリダ”と名乗った。 「どうする?」 「はい。ヤス様のご指示を受け入れます」 「いばらの道だぞ?」 「はい。理解しております」  オリビアもルカリダも覚悟が出来ているという視線だ。 「わかった。君たちの亡命を受け入れよう」  オリビアとルカリダはお互いを見てから、俺に深々と頭を下げる。 「ありがとうございます。ヤス様」  これで、先の話ができる。 「移動は、少しだけ待って欲しい」 「わかりました」  オリビアは、素直に受け入れた。 「ヤス様。”待つ”と何があるのでしょうか?」  従者ルカリダが、オリビアの代わりに質問をしてきた。  オリビアとしては、神殿への亡命が決まれば、十分だという判断なのかもしれない。 「どうやって神殿まで移動する予定だ?まだかなりの距離を移動しなければならないぞ」 「え?」 「護衛が置いて行った地図を見たのかもしれないけど、王都にも、神殿にも、通常の馬車でも5日以上は必要だ。馬が居る状態でも、そのくらいは必要だ。物資も無いようだし、馬も居ない状態で、どうやって神殿まで移動する?」 「・・・」 「考えては居なかったのだな?」 「・・・」 「そう思ったから、アーティファクトを呼んだ」 「え?」 「馬車を残していけないだろう?あと、俺たちが乗っていた物では、全員を連れて行けない」  ルカリダも納得してくれた。  一人だけ明後日の方向で興奮している。 「ヤス様!ヤス様。アーティファクトが来るのですか?」 「そうだ?問題なのか?」 「いえ!違います!」「姫様。落ち着いてください」 「ルカリダ!何を言っているの!アーティファクトに触れるかもしれないのですよ!ヤス様のお話では、乗せていただける可能性だってあるのですよ!」  ルカリダが少しだけ困った表情をしてから、もう一人の従者を手招きしている。 「メルリダ。姫様をお願いします」  近くまで来たメルリダに、オリビアを押し付けるようにして、この場から退場させた。  ほぼ・・・。力で、無理矢理・・・。引っ張っていった。姫は、塞がれた口で何か叫んでいるようだ。そもそも、主人である姫にいいのか?  普段から似たような事はしているのだろう。やけに手慣れている。 「失礼しました。神殿の主。ヤス様」 「構わないけど・・・。いいのか?国の姫なのだろう?」 「大丈夫です。いつもの発作です。しばらくしたら、落ち着きます」  まぁ大丈夫というのなら、俺が気にする事ではない。  もしかして、ポンコツは姫騎士だけかと思ったら、それ以上に、姫がポンコツなのか? 「そうか・・・。それで、何か、いう事があるのだろう?」  一人だけ残った理由が何かあるはずだ。  先に言っておくべき事や、質問が無ければ、二人で姫を引き摺って・・・。俺から引き離してから、謝罪に来ればいい。そうしなかったのには、何か理由があるのだろう。 「ヤス様。受け入れ、ありがとうございます」 「問題ない。それで?」 「はい。姫様が、興奮した理由なのですが・・・」  あぁ恥部(発作の原因)を話しておこうというわけだな。 「あぁ」 「ヤス様の・・・。神殿のアーティファクトが、馬車の数倍も早くて、それでいて、数倍も静かで揺れないと聞いて、姫様は一度でいいから乗ってみたいと・・・」 「ん?そもそも、アーティファクトの情報は・・・。そうか、帝国だから、情報は入ってくるのか?」 「はい。姫様は、”欲しい”よりも、見たい。触りたい。乗りたい。の、欲求が強くて、王都での話が終われば、神殿に一人でも行くと・・・」 「あぁ困った姫だったのだな」 「はい。残念ながら、普段は、理知的で、物静かで、理想的な姫様なのですが・・・。ご自分の興味には、一直線で・・・。時には、下々の居る酒場に出かけたり、鍛冶職を呼ばれたり、城下を村娘の恰好で歩かれたり、本当に・・・」 「従者は大変だな。でも、そうなると、騎士との相性がよくないのでは?」 「・・・」  ノーコメントか、今の表情でなんとなく理解できた。  だから、ここにも、従者の二人が一緒に来ただけで、騎士の3名は付いてこなかったのだろう。 「まぁいい。多分、半日程度で到着するだろう。それまで悪いけど、この場で待機してくれ」 「ヤス様たちは?」 「俺たちも付き合う。そもそも、俺たちが居ないと、困るのは、お前たちだぞ?」 「え?」 「アーティファクトを運んでくる者たちは、帝国の圧政で、村を放棄した者たちや、捨てられた子供だ」 「・・・。わかりました。ヒルダ/ルルカ/アイシャには言い聞かせます」 「わかった。俺は、問題がありそうな者たちを最初に呼んだ。試練とか偉そうにいうつもりはないが、問題がありそうなら言ってくれ、何ができるか解らないが、対処は考える。できる限り、自分たちで何とかして欲しいとは思うが、逆効果になってしまう場合もあるから、立ち行かなくなる前に行って欲しい」 「・・・」 「難しい事を言っているのは解るが、自分たちでも問題になりそうな人物は解っているのだろう?最悪は、”関わらない”という選択肢もある。無理に付き合う必要はない。その時にも、安全は補償しよう」  ルカリダは、黙って俺に頭を下げた。  話をしてみれば、姫はポンコツカテゴリーでいいだろう。リーゼと同じカテゴリーかな?  メルリダとルカリダは、苦労人だ。状況分析もしっかりとできるし、相手の状況に合わせる事ができるようだ。オリビアはいい腹心を持った者だ。騎士はダメだろう。ただの脳筋ならいいのだが、話を聞いた限りでは、”正しい”ことに拘り過ぎている。  移動中に、問題が噴出してくれればいいのだけど・・・。
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