第十一章 ユーラット

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第二話 移動中  休憩の度に、リーゼが俺の側に来る。 「ヤス?」 「なんでもない」  リーゼの頭を撫でてやると嬉しそうな表情を浮かべる。 「ねぇヤス」 「ん?」 「モンキーは、後ろに人を乗せられる?」 「ん?」 「ほら、ヤスが使っていたCBR?あれは後ろに乗れるよね?」  前に、リーゼがコーナを上手く曲がれないというので、CBR250Rの後ろに乗せて走った。 「うーん。リーゼのモンキーなら大丈夫だ」 「わかった!」 「誰を乗せたい?ヘルメットは?」 「オリビアが乗ってみたいって言っていて、騎士?は反対していたけど、いいよね?ヘルメットは予備があるよね?」  オリビア?  まだ、神殿についていないのに、段々と”地”が出始めているのか?  普段の言動を聞いていると、俺には遠慮をしている感じはしているが、徐々に遠慮が無くなってきている。リーゼは当然だとしても、ルーサやカイルやイチカとの会話から何かを感じているのだろう。  枷が外れた状態に思える。  騎士たちの目は厳しい。厳しいから、どんどんオリビアがリーゼたちと一緒に居る時間が増える。神殿の民に溶け込むためという自己弁護・・・。言い訳を手に入れて、オリビアは休憩中には、メルリダとルカリダだけを連れて、リーゼの側に居る事が多い。  リーゼが、ハイエルフのハーフで、神樹に巡り合った話を聞いてから、二人の従者の態度も変わった。リーゼが、エルフを統べる者だと思っているようだ。最初に誤解を解かなかった俺にも問題はあるが、従者はリーゼを”エルフの姫”だと思っている。理由があって、神殿に身を寄せていると考えている。ルーサがその勘違いを加速させてしまった。騎士たちが、ルーサに勝負を挑んだ。俺の見立て通りに、ルーサは1対3で騎士たちを叩きのめした。そのルーサが、リーゼに気を使っている状況が勘違いを加速させた。  それでも、ヒルダを筆頭にした騎士たちは、距離を保っている。  何が気に入らないのか解らない。全部が気に入らない可能性もある。オリビアからの注意が入って、注意されてすぐは態度や言葉はなおすが・・・。すぐに、態度で不満を前面に押し出してくる。言葉では文句を言わなくなった。  態度が悪いのは変わらない。 「大将!」 「どうした?」 「あぁ神殿には、どこから入る?」  馬車は、ユーラットに置いていく。  オリビアには承諾を得ている。  神殿の門を越えられるのか?  オリビアとメルリダとルカリダは大丈夫だろう。しかし、騎士たちは、微妙な所だ。最近は、緩くしているが、微妙だな。でも、西から入っても同じだよな? 「正面からでいいだろう」 「わかった。ユーラット経由だな」 「頼む」  道が決まれば後はルーサに任せる。  まずは、荷物を運ぶドライバーを呼び寄せて説明を始める。ユーラットまでなら問題はないだろう。  次は、カイルとイチカだ。先行して、アシュリに知らせに行く。その時に、アシュリで待機を言い渡している。アシュリから、ユーラットには別の者が向かう。  アシュリは”ほぼ”通過に決まった。  ルーサが、帝国の騎士たちに、アシュリの実情を見せるのを嫌ったからだ。俺も、見せる必要はないと思えたので、ルーサの意見に賛同した。  俺とルーサが話している最中に、イチカだけが会話に参加している。  カイルとリーゼは、モンキーを拭いている。リーゼは、自分のモンキーだけだが、カイルは自分のモンキーの前に、イチカのモンキーを拭いている。 「リーゼ!カイル!駆動系にゴミが詰まっていないか?軸が汚れていないか?ブレーキのワイヤーは適切か?」  ルーサと会話をしながら、リーゼとカイルの様子を見ていると気になってしまった。  口に出してから失敗だったと気が付いた。  リーゼの表情からそれを悟った。 「はぁ・・・。わかった。ルーサ。イチカ。詳細は任せる。正門から、神殿に向かう。ユーラットでの休憩も必要ない。説明は、リーゼからオリビアに伝えてもらう」 「ヤス。ごめん」 「いいよ。俺も言い過ぎた。神殿に戻ってきたら、メンテナンスの方法を教えてやる」 「うん!」  これで、リーゼの機嫌(テンション)が戻ってくれたら安いものだ。  今まで簡単なメンテナンスは教えてあったが、神殿から離れた場合のメンテナンスは教えていなかった。朝から走り続けた時に、どこが摩耗して、どこを見ればいいのか程度にしか教えていない。  リーゼが納得したので、休憩を終わらせた。  リーゼは、オリビアを後ろに乗せて、走り出した。ヘルメットは、予備で持っていた物を渡したが、騎士たちの目線を見ると、オリビア専用にした方がよさそうだ。リーゼの性格を考えると、神殿に戻ればカート場にも連れて行くだろう。徐々に判明してきたオリビアの性格を考えると、カートを知って”乗らない”という選択肢は存在しないだろう。  また面倒なことになりそうだ。  今、考えても無駄だ。未来の俺に期待しよう。 『大将。アシュリは素通りでいいよな?』  ルーサから無線での連絡が入る。  リーゼがオリビアを後ろに載せているから、アシュリで休憩が必要になると考えたようだ。リーゼからも問題はないと連絡が入っている。 『大丈夫だ』  アシュリは、素通りを想定して作られている。  アシュリを抜ければ、後はほぼ直線だ。休憩も必要ない。  神殿の領域に入った事で、ディアナがマルスと接続を行って、情報が流れ始める。  収支報告は、帰ってから見ると伝えているので、収支に関係がない情報なのだろう。  人が増えている?  子供が産まれた?  人が増えているのは、帝国からの亡命?者が多くなっている。  特に、トーアヴェルデは一度に100名の亡命の希望者が殺到したことがある。帝国軍を退けていることが、帝国内部にも広がっているのだろう。  いずれ、オリビアに聞かないとダメな案件だけど、今は気にしないほうがいいだろう。  トーアヴェルデだけでは対処が難しくなって、ウェッジヴァイクでの受け入れも開始した。建前は、ウェッジヴァイクは帝国領にある。帝国の街だが、独立宣言を行っている。帝国の領軍との戦闘は既に10回を越えている。全てを、撃退していることで、領軍も物流を止める方法で、干上がるのを待っている。しかし、ウェッジヴァイクは、神殿と繋がっているので、物資は神殿から供給されている。  時間をかければ、弱体化すると思っている領軍だが、ウェッジヴァイクから見ると時間を稼いでもらったほうが、守りを強固にできる。時間を味方につけている状況だ。 『大将。俺は、そのまま上がっていいか?』  ユーラットに近づいて、今後の事を決めなければならない。 『いや、裏で止めてくれ、そこからバスで向かう。マルス。一台。バスを向かわせてくれ、貸し切りで頼む』 『了』 『俺の役割は、ユーラットまでか?』  ルーサの少しだけ安堵の声に笑ってしまいそうになるがダメだ。逃がすわけがない。 『ダメだ』 『え?』 『荷物があるだろう?馬車から、ルーサのバスに載せないとダメだろう?』 『あっ・・・。大将?』 『諦めろ』 『わかった。イチカ!カイル!手伝え!』 『『えぇぇぇ!!』』 『ヤス。僕は?』 『リーゼは、そのままモンキーで移動してもいい。FITに乗るか?』 『うーん。イチカとカイルが居ないのなら・・・。ヤスの隣に座る』 『わかった』  リーゼの後ろには、オリビアが乗っている。リーゼが話始めて不思議に思ったのだろう。いろいろ、リーゼに聞いている声が聞こえる。別に教えても大丈夫だと伝えた。個人認証が行われている物だから盗み出しても、仕組みは解らないだろう。  そもそも、イワンたちに見せた時に、はっきりと”無理”だと言われている。  ICチップが何をしているのか理解ができない。らしい。俺も、説明ができない。こういう物だと説明するしかない。ICチップだけを仕入れて、イワンに渡しても基盤がないから再現は不可能だ。同じような、仕組みを組み込んでみても、劣化した物にしかならなかった。  だから、別に知られても困らない。  便利な物は使わなければ意味がない。俺と同じように、地球から来た物が居たとしても、神殿の力やマルスが居なければ、再現は難しいだろう。  マルスが検証した結果だ。  俺たちが使っている地球由来の電子機器は、再現は不可能。これが、結論だ。
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