第十一章 ユーラット

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第四話 審査と予想  結局、神殿にはアイシャがオリビアの護衛として付いてくることになった。  最初は、オリビアが護衛は必要ないと言ったが、全員から却下された。  馬車を守るのは、ヒルダとルルカだ。  神殿には、オリビアとメルリダとルカリダ。そして、護衛としてアイシャが行くことになった。荷物は、オリビアの物を中心に、少なくしてもらった。必要になったら、取りにくればいいと説き伏せた。  俺はFITで向う。オリビアがFITに乗りたいようなことを言ったが、メルリダとルカリダが反対した。オリビアの話を聞いたリーゼが、最初はモンキーで帰ると言っていたのを撤回して、助手席に座ることになった。  荷物は、多くないので、ルーサのバスに乗せた。リーゼのモンキーもバスに載せる事になった。 「ねぇヤス?」  つづら折りの道を快適に飛ばしている。  対向車は、現在は居ない事が解っている。神殿側でルーサがバスで上がっていくことを伝えたら、定期便以外は止めた。定期便は、先ほどストレート部分ですれ違った。  もう邪魔になる物は、飛び出してくる魔物だけだ。 「なんだ?」 「オリビアはどうなるの?」 「本人次第だと思うぞ?」 「本人?」 「”帝国の姫”で周りに接すれば、拒絶されるだろう」 「そうだね」 「”帝国から亡命してきた姫”じゃなくて、”帝国を捨てた姫”になるのなら、誰かが手を差し出すと思うぞ?」 「アデーとか?」 「そうだな。年齢も近いから、顔見知りなのかもしれない」 「え?そうなの?」 「帝国と王国は、戦争しているけど、交流していないと、落しどころが見つからないだろう?戦争を必要な物と割り切っていれば・・・。だけどな」  神殿の出現で、戦争は止まっている。停戦したわけではない。戦争ができない状況だ。王国は、戦争の無い時間を受け取っている。帝国は?  辺境に位置する貴族が攻撃を仕掛けて来るが・・・。意図は、オリビアが知っていれば教えてくれるだろう。 「そうなの?アデーに聞けばわかるよね?」 「そうだな」  最後のカーブを曲がって、あとは直線だ。  加速はしない。  神殿の門が見えてきている。  俺とリーゼなら、門での審査は必要ないが、ルーサのバスに乗っている者たちは審査が必要だ。  FIT を停めて待っていると、バスが見えてきた 「ルーサは流石だな」 「え?」 「5分程度の遅れだ。引き離したと思ったのだけどな・・・」 「そうなの?」 「そうだな」  ルーサのバスは、最終コーナーを曲がった所で速度を落した。  乗っている者たちを不安にさせない速度と運転で上がってきたのだとしたら、かなりルーサは上手くなっている。実際に、かなり速度は落したと言っても、10分くらいは引き離したつもりでいた。  最終コーナーで速度を落した所から、中に乗っている者たちに、神殿の城壁?を見せるためだろう。  城塞の上に乗っているバリスタもしっかりと見えるだろう。  オリビアが帝国からのスパイだとして、神殿の城壁を突破できるだけの兵力を揃えられるとは思えない。  内部からの破壊工作が不可能に近いのは、これから教えればいい。帝国では姫だったかもしれないが、ここではそんな肩書では何も動かせない事を知ればいい。  バスが近づいてきた。  停留所ではなく、手前の広場で停まった。マルスから指示が出たのだろう。 「ヤス様」  オリビアたちは、審査の説明をバスの中で受けたようだ。  問題は、アイシャだけだが雰囲気からだけだが、問題は無いだろう。 「審査を受けて来るといい」 「わかりました」  素直に従ってくれる。  マルスのことだから、審査は多少の問題なら通過させて、監視を行う方法を取るだろう。  リーゼがオリビアたちを案内するようだ。  オリビアたちが、審査所に入っていくのを見ていたら、ルーサが近づいてきた。 「大将。大丈夫か?」 「ん?どっちの意味だ?」  ルーサの表情と言い方では、オリビアたちは審査が”大丈夫か?”と聞いているように思える。  立場で考えれば、ルーサの”大丈夫か?”は、彼女たちは”神殿に害を為す者たちか?”の意味にも思える。 「あぁ・・・。審査は通るか?」  やはり、前者だ。 「どうだろうな?通ると思うぞ?」 「そうなのか?」  少しだけ意外だ。 「オリビアのアイディアなのか、従者の入れ知恵なのかわからないけど、ダメそうな二人はユーラットに置いてきている」  俺の見立てでは、ヒルダは確実にダメだろう。  害悪にしかならない。正直な感想として、西でも無理だろう。殺して、ドッペルと入れ替えたいくらいだ。オリビアが、ヒルダたちは必要だと言い出したら、ドッペルとの入れ替えも視野に入れる必要がありそうだ。 「ヒルダとルルカか?」  ルーサも、二人を置いてきた理由は解っているのだろう。  もしかしたら、バスの中で悶着が合ったのかもしれない。聞いたら、文句か愚痴が雪崩の様に出てくるだろうから、聞かないほうがいいだろう。 「あぁルルカは、俺の予想だと審査は合格するだろうけど、ヒルダはダメだ」  俺の予想というよりも・・・。  マルスに聞けば解ることだろうけど、1人(ヒルダ)は聞く必要がない。  神殿に悪意があるとかではない。  多少の悪意なら見逃してもいいと思っているが、自分の理想像を自分が守るべきオリビアにぶつけてしまう。  協調性云々ではなく、人としてダメだ。正義を信じて疑わない愚か者だ。正義なんて曖昧な物に縋って生きている哀れな人だ。 「そうだな。俺もそう思う。大将。なら、ユーラットまで連れてきた?」  ルーサの疑問は当然だ。 「ん?アシュリで降ろした方がよかったか?」  それなら、途中で降ろせる場所は、”アシュリ”しかないが良かったのか? 「かんべんしてくれ」  ルーサの嫌そうな顔が、全てを物語っている。  アシュリでも、すぐに問題が発生するだろう。その時に、発生する問題は神殿よりもアシュリの方が大きいように思える。 「そうだろう?ユーラットなら監視ができる」  それに、もともとユーラットは帝国から逃げてきた者たちも存在している。  帝国の貴族に仕えていた者もいたはずだ。それに、ユーラットなら問題が起きても、アフネスがなんとかするだろう。ロブアンは嫌な顔をするかもしれないが、リーゼの安全と引き換えなら、面倒だと思いながらも引き受けてくれる。 「そうか・・・。たしかに、ユーラットなら、神殿側には・・・。無理だ。森もあの実力では生き残れない」  ルーサの言っている通りだ。  ユーラットの中に居るのなら監視はできない。  一歩でも外に出たら、監視対象はすぐにトレースが開始される。  ルーサの言っている通り、神殿側に来るのなら来てもいい。どうせ、神殿の壁は越えられない。誰かの荷台に忍び込んでも無理だ。マルスの監視からは逃れられない。森側に逃げたとしても、あの実力では1日でも生き残れるか微妙だ。表層に居る獣程度は狩れるだろうけど、その奥は無理だ。  ルルカと二人で森の踏破を考えたとして、表層を突破するのが限界だろう。  群れが出た時点で終わりだ。  あと、物資もそれほど集められないだろう。  文句を言っても、あのアフネスだ。2-3日分なら可能だろうけど、それ以上は無理だ。まして、武器や防具の調達は無理だろう。ユーラットには、新人用の物しか置いていない。  ユーラットのギルドには、数点置いてあるが、盗み出せるとは思えない。  簡単に言えば手詰まりの状態だ。 「そうだな」  オリビアに付き合って、審査所に向っていたリーゼが戻ってきた。  リーゼの様子から結果が推測できる。  嬉しそうにしている。  その後ろから、証を持った3人が少しだけ駆け足でリーゼの後を追っている。 「ヤス。皆OKだよ」  リーザは俺に抱き着きながら報告をしてくれる。  別に報告は必要ないと思うが、リーゼが報告をしたいのだろう。それに、オリビアたちは”何か”いいたい雰囲気があるが、リーゼが俺に抱き着いているので、俺に近づかないで少しだけ距離がある場所で、俺たちを見ている。 「わかった。ルーサ。頼む」  リーザの頭を撫でながら、ルーサに指示を出す。  指示を出さなくても、ルーサは解っているのだろうが、オリビアたちに聞こえるように言えば、3人が理解をして、乗ってきたバスに向う。 「あいよ。どこまで行けばいい?」 「ひとまずは、奥まで行ってくれ」  家は、セバスが用意しているはずだ。  リーゼの近くになるはずだ。 「わかった」  ルーサも、3人には悪い印章はないのだろう。  審査が通った事を喜んでいる。  バスの中で何があったのか、少しだけ興味が湧いてきたが・・・。
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