兄さんは女装をやめられない

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更に奥へ進んでいった。 いく分か進んだあと、ふと、何かが動いているのが見えた。ライトに照らされたそれをよく見てみると・・・。 怪物だった。 出発前に画像で見ていたそれのいるところに、ようやくたどり着いたのであった。 それをモニターで見ていた兄、思わず叫んだ。 「おお、ようやく現われたか、よーし行け、やっつけちまえ」 そう叫びながら少し動いたので、その体の中にいる輝子は揺れを感じて倒れた。 「お兄さんは動かないでと言ったでしょ」 先生に言われて兄は動作を止めながら、こう言った。 「だけど、本当にぼくの体の中だって理解できたで」 そして輝子は起き上がったあと、質問すべく話した。 「あれどうやって退治するんですか」 兄がつぶやいた。 「そういえば」 それに対し、先生が話し始めた。 「それじゃあ、こちらの言う通りに行動して。まずはその怪物の近くまで接近して。そうその位でいいわ。それから両手をあれに向かって突き出して。そう、その状態でじっとしてて」 先生は博士に指示した。博士は端末を操作した。 すると、輝子の手から光のようなのが飛び出した。 「きゃっ」 突然起きた衝撃に驚いて、輝子は身をかがめて倒れた。 先生が注意した。 「怪物に電気ショックを与えるのよ。あなたはしびれたりしないけど、体に少し衝撃がくるの。それにうまく耐えて」 言われたあと、輝子は再び起き上がって、さっきと同様、両手を怪物のほうへ向けた。 怪物も、輝子の姿を見い出して、こちらのほうへ向かってきた。 「絶対に動いちゃだめよ、辛抱してて」 こういったあと、先生は博士に指示した。再び、輝子の両手から放電が起こった。輝子は何とか動かないでいた。 電気は輝子の体から怪物に向かって一直線に伸びていった。そして怪物の体にうまく命中した。 しばらく放電が続いた。やがてそれが止まった。すると怪物は、動かなくなり、倒れた。 「やった~」 兄は体を動かさない状態でそうつぶやいた。 「うまく気絶させたようね」 先生が言った。そのあと輝子が聞いた。 「それからどうするんですか」 「その怪物を連れてきて」 先生にそう言われて、輝子は「え?」と叫んだ。 「つまりね、その怪物を今後の研究の資料として使いたいの。だから、あなた、脱出するときに持ってきてちょうだい」 先生の無茶とも思える要求に、輝子は戸惑った。 「こんなでかくて重そうなのをかついでいくんですか。出口まで。ここまで来るのも大変だったんですけど」 兄は、こう突っ込んだ。 「それ自体ちっこいからいけるんじゃないか。あ、そうか、お前も小さいんだったな」 「ちょっと待ってて」 先生がそう言ったあと、指示を出し、それを見て博士がまた操作した。 すると今度は、輝子の目の前に、何か黒いものが出現した。それはだんだん大きくなっていき、その黒い円とも球体とも思えそうなものの中に、何か別のものが見えた。 「さあその門をくぐって脱出してきなさい。怪物も忘れないでね」 見えたのは、外の景色だった。もちろん、輝子のそのときと同じ大きさのである。 それを確認したあと、輝子は倒れている怪物のところに来て、それを持ち上げようとした。意外にも簡単に持ち上げることができた。 「やっぱりそれ自体が小さくて軽いからかな」 兄はそうささやいた。そのあと輝子は、今さっき出てきた門のところへ行き、それを通り抜けた。モニターは、兄の体内から外の景色へと変化していった。門をくぐり抜けたあと、輝子は振り返り、それを見てみた。ここからだと、体内の様子が見える。モニターの映像も同じであった。そのあと先生の声が聞こえ、その門が小さくなっていき、そして全く見えなくなった。 「ところでこれどこに置いておいたらいいですか」 輝子が聞くと、先生が、とりあえずその辺でいい、と答えたので、持っていた怪物の体を地面に下ろした。 「だけど、その異次元空間みたいの、できるんだ」 兄の疑問に、先生が答えた。 「さっきも博士がおっしゃってたけど、ワームホールの研究の過程でこの人体縮小の技術が可能になったのよね。だからこれくらいできても不思議ではないのよ」 「しかし、だったら、最初からこれ使えば、あいつに山登りみたいなことさせずにすんだんじゃないか」 「未知の場所、まだ行ったことがないところへは門を開くわけにはいかないのよ」 「そういうもんなんだ」 兄はとりあえず納得した。 「さあ、今取り出した怪物を早く回収して」 先生は研究員達に命令した。 「あなたはすぐに元に戻してあげるわよ」 先生は輝子のところへ近づいてきて、言った。 輝子は、元の大きさ、元の姿に戻っている。 そして、博士、先生、兄の3人と一緒に、テーブルを囲んで座っていた。 「とりあえず実験は成功したわ」 先生がそう言ったあと、輝子は話し出した。 「私、今日のすごい体験、生まれて初めてで、今でも夢ではないかって気がするんですけど、でもお兄ちゃんの体の中を歩いたり登ったり怪物をやっつけたり、その間苦しいとか疲れるとかほとんど感じなくてむしろ体が軽くなったみたいで快適で、何ていうかよくできてるんだなって実感しました」 「うわーそうなんだ。それ聞いてると、ぼくもそれ着てみたくなるな。ぼくのはないですか」 兄の疑問に対し、博士が答えた。 「残念だけど、今は妹さんのサイズのみだ」 「あっそう。ところで、ぼくの女装、直ったんですか。まだ何も感じないんですけど」 博士が説明した。 「君に影響を及ぼした怪物を取り除いても、すぐに何らかの変化が表われるとは限らない。何日か様子を見てみることにしている。他にも、捕まえた怪物の調査などまだまだやるべきことはある。君達の役目は終わりだ。君、家まで送っていってやりなさい」 「はい」 先生が返事し、そして兄と輝子を連れて研究所を出て、再び車で家へ送っていってあげた。
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