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数日後。
輝子は学校の廊下を歩いていた。保健室の近くまで来たところで、先生の姿を見た。向こうもこちらに気づいて、そして話しかけてきた。
「あら、あなた。ちょうどよかったわ。あのあとお兄さんの容体はどうなったの?」
「それが・・・」
「え、何?」
輝子は言葉を一瞬詰まらせたが、すぐに気を取り直して、話し始めた。
「全然変わらないみたいなんです。それどころか、お兄ちゃん、女装して1人で外出まで始めて、自信が付いてきた、なんて言い出すんです」
「あらそう。まあいいわ。それじゃあ、今日の放課後でいいかしら。また研究所に来てくれないかしら。お兄さんも一緒に」
「私はいいですけど、お兄ちゃん、突然そう言われても都合がつかなかったら嫌がるし」
「それじゃあ、一度家まで車で一緒に行って、お兄さんに聞いてみるわ」
「そうして下さい」
輝子と兄は、先生の車で再び研究所にやってきた。
それから、兄の体がまた調べられた。
そして、博士、先生、輝子、兄の4人がテーブルを囲む。
「うーむ、兄さんの体にはもう怪物はいないね」
調査結果を見た博士の説明に、兄が答えた。
「この前取り除いたんですよね」
先生が解説する。
「いや、君がまだ女装を続けているということで、あるいは別の怪物が取り付いたという可能性も出てきたわけだ。だけどそうではなかったようだな」
「じゃあなんでお兄ちゃんは女装をやめないんですか。本当に怪物の仕業なんですか」
輝子が質問する。博士は答えた。
「いや実のところ、女装癖の原因が怪物かどうかについては、まだ憶測の域を得ていないんだ」
「え?」輝子は驚く。
「いや、怪物を退治したことで女装しなくなったという報告も世界のあちこちの国や地域でなされている。その種の研究はまだまだこれからなんだ。ところで、兄さんはいつ頃から女装するようになったんかね」
「ええと、私が中学のときだから、4年前からです」
「そうか。実は、小さい怪物の騒動が最初に起こったのが3年前なんだ」
「え?」
「つまり、君の兄さんは怪物の影響とかでなく自らの意志で女装を行なうようになったということだ。人を女装させる怪物が取り付いたのも偶然かもしれん。というか、女装はむしろ普通にある行ないで、病気とかではない。もっと理解しあってもいいんではないかね」
「ええ~?」
「ところで、お兄さんは女性の靴とかに興味はあるの?」
今度は先生が聞く。兄が答える。
「ああ。ぼく、女装するときには靴にもこだわってるんだ」
「黒くてつやのあるのにひかれる?」
「そう、そうだな」
「妹さんもそうなの?この前私の靴に興味をひかれたみたいだけど」
「ええ?違いますよ」妹が反論する。兄は構わず答える。
「おお、そうなんだ。こいつ、いつもぼくの靴をきれいに磨いてくれるんだ。自分のもな。おかげで、こいつが学校行くときのローファーがいつもピカピカなんだ」
「もうー、お兄ちゃん、そんなことまで言わないでよ」
「うふふ」先生はほほえんだ。
「ところで、この前の妹さんの実験、あれ関係者にすごく評判だったんだ。実際、あの実験見せてほしいとたくさんの人達から依頼が来てる。だから、あれまたやってもらいたいんだが」
「ええ?またですか」
博士の頼みに、輝子は戸惑った。
「それ相応の謝礼は払うよ。それに病気の人を直すんだから、目的は悪くないと思うんだが」
「他にできる人はいないんですか」
「この前も言ったけど、君の体格がこのシステムに最も適応しているんだ。他に同じ体格の人が見つかればその人にもやってもらうことにしている。それと、このシステムもそのうちコピーされ大量生産され、他の体格の人にも使えるように開発される。そのときまで君にやってもらいたいんだよ」
「うーん」輝子はしばらく考えたあと、決意した。「わかりました、やります」
「それで、それそのうちぼくにも使えるようになるんですか」兄が聞いてきた。
「そうだね、そうなるだろうね」
「わーい、早くやってみたいなあ」
「もうー、お兄ちゃんたら」
ということで、このお話は終わりです。
そのかわり、後日談を、輝子の語りによって伝えていくことにします。
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