兄さんは女装をやめられない

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私、あるとき、保健室の先生のすすめで、私の体を小さくしてボディスーツを着て、女装している兄の体内にある怪物を取り除くという実験をさせられました。 兄の女装癖は直らなかったのですが、いずれまた実験をしてもらいたいと頼まれたりしました。 あれからいく分かたち、今のところまだ依頼はきていないのですが・・・。 放課後の帰宅時、また先生に呼び止められました。 「ちょっといいかしら。他に用事がなければ付き合ってくれない?」 そのとき特に用がなかったので、付いていきました。 周りに誰もいないところで、先生は何か道具のようなものを取り出すと、目の前に黒い球体が現われました。 「さあいらっしゃい」 先生はその中に入っていきました。私もそのあとを付いていきました。 付いていった先は、あの実験を行なった研究所の部屋の中でした。 黒い球体は、正確には別の場所へ移動できる門のようなもので、あの実験で兄の体内から脱出するときに使ったのと同じものでした。 「先生、これがあるんでしたら、車使わなくてもよかったんじゃないんですか」 私の質問に答えることなく、先生は説明を始めた。 「この前は実験に付き合ってくれてありがとう。だけどあのあと実験の機会が全く訪れなくて、そしたら博士が提案してくれたの。あなたがこの設備を使ってもらっていいって」 「え、どういうこと?」 「だから、この体を小さくするシステムを、あなたは自由に使ってもいいって言ってるの」 「え、いいんですか。どうしてですか」 「博士がもっと実験のデータを取りたいとおっしゃってて、あなたに色んな実験をしてほしいと思ってらっしゃるの」 「でも、これ何に使えるんですか」 「何でもいいのよ。あなたが日常生活の中で困ったときにこれを使って解決できるのって結構あるんじゃないかしら」 「だけど本当にいいんですか」 「いいのよ。そのかわり正しいことだけに使いなさいね。この前は電気放射とかは外から操作してあげたけど、それを含めて基本的なことは自分でできるように設定しておいたわよ。これを渡しておくわ。さっき私が使ったのと同じような別の場所へ行ける門を開けるための道具よ。必要なときはいつでもここに来て使っていきなさい。それと、このことは他の人達には秘密にするのよ」 そういうわけで、私、ミクロ化人間としてヒロインデビューしました、なんてね。 まず、道具を使って門を出し、それを通り抜けて研究所に行き、そこで縮小化とボディスーツ着用を行ない、また門をくぐって元のところへ戻ってくる。 こうなると事実上、変身ヒロイン、ってことになるわね。同じことを逆に行なえば、元に戻れるし。 このヒロインとしてやることといえば、悪いやつらをやっつける、とかでなく、日常での困ったことを解決する、ということ。例えば・・・。 自動販売機やスーパーのレジの近くで硬貨を落としたり、部屋で消しゴムなど小さいのを落としたりしたときに、拾いにいくの。狭いところに転がったりしたときは普通では取れないからありがたいけど、小さくなった状態で探そうとすると辺りが広くなるから大変なのよね。 それから、友達が、皮膚に棘が刺さったとか、歯の奥に物がつかえて取れないとかと悩んでたときに、取り除いてあげるの。ただし、私のヒロイン活動はみんなには内緒にしてるから、いつの間にか取れてた、という回答しか聞けないわけだけど。うっかり宝石を飲み込んでしまったということになったら、解決後どうやって説明すればいいかしら。 他には、家にネズミやゴキブリがいたというときも。だけどすばしっこくてなかなか見つからなかったり逃げ足が早かったりして大変で、やっと1匹電気ショックを浴びせて倒したとしても、こういうときってまだ何匹もいてるようなものだから完全には解決できないわけだし。お兄ちゃんの体内の怪物のときと違って、病原体ともなると病人の体内に何百何千もいてるようなものだから、伝染病の治療とかはできないのよね。 あるいはこんなことも。学校の友達の中には、親がいなくて施設から通ってる子がいるんだけど、その施設の借金が払えなくて暴力団に持っていかれそうになったの。それで私は、丁半のサイコロ博打を提案したの。勝ったら借金の返済を待ってくれるようにって。あとは、私が籠に忍び込んで、サイコロの目をごまかすの。これズルだしイカサマではあるんだけど。それに、法律に触れるから、データ取りしている博士に気付かれないように小細工して変身するのにも苦労したわ。 と、こんな風に、私は色んなところでミクロ化ヒロインとして活動しているわけだけど、私自身は、普通に生活して普通に学校に通っているごく普通の女の子なのです。 ただ1つ、お兄ちゃんが女装している、というのを除いて、だけどね。
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