ひとには足りないところがある

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「あーん」  ぱくっ。  数あるハンバーガーショップでもフライドポテトはここが一番だと思う。  フライドポテトを食べさせ合うなんて、周りからはバカップルに見えているだろう。でも、それでいい。一人で寂しくスマホでゲームしている人よりも私は幸せだと思うし、私みたいな女でも彼氏がいる事を見せつける事で、自己顕示欲が満たされる。でも、いつも何かが足りない。心の穴を埋めようとすれば、別の場所に必ず穴が空くのだ。 「はい、あーん」  ぱくっ。  目の前で満面の笑みを浮かべる男は私の彼氏だけれど、付き合って三ヶ月たったにも関わらず肉体関係は無い。30歳で童貞だから仕方がないと思ったけれど、手を触れるだけでもパニックを起こしてしまうくらいピュアな男だ。正直、私には物足りない。その穴を埋めるようセフレがいる。この間、街でナンパされてそのままセフレになった。そして、こうしている間もセフレからのメールを待っている。 「はい、あーん」  ぱくっ。  彼氏は優しいし、好きなのは確かだ。推しのライブのチケットは絶対に手に入れてくれるし、UFOキャッチャーの欲しいプライズは必ず取ってくれるし、デートは30分前から待ち合わせ場所で待機してくれるくらいだ。彼は私の事を常に一番に考えてくれる。だから手放したくない。そんな彼に出会ったのは合コンだった。 「はい、あーん」  ぱくっ。  合コンは冴えないメンバーだった。私たちも決して美人の集まりではないが、相手もイケメンは一人もおらず、その中で一番冴えないのが彼だった。彼は中高男子校で大学は工学部。就職してからも男ばかりの職場で、女子と話をする機会がほとんどなかったらしい。せっかく女子と話をする機会だっていうのに、会話にもほとんど参加してこなかったし、私が話しかけても恥ずかしがってまともに目を合わせてこなかった。そんな彼を私が選んだ理由は、誠実そうで素直に私の言うことを聞いてくれそうだったからだ。 「はい、あーん」  ぱくっ。  本音を言えばイケメンと付き合いたい。その点セフレはイケメンで長身でスポーツマンだからスタイルも良い。でも、おそらく既婚者だ。直接確認したわけではない。指輪をしているのも見たことがない。ただ、ハンカチが綺麗に畳まれていたり、ワイシャツの襟まできっちりとアイロンがかかっているのをみると、妻がいるように見えてきてしまう。だから、心を奪われるまいとセフレはセフレとしてお付き合いをしている。彼氏とセックスできないのだからセフレがいるのも仕方がない。 「はい、あーん」  ぱくっ。  ちなみに彼氏はこれで8人目。セックスをした男は10人。半年以上続いたのは高校二年の時に付き合った彼氏だけ。ちなみに「何人と付き合ったことがある?」と、聞かれた時には一人と答えるようにしている。私にとってお付き合い半年以内は試用期間であるので付き合ったことにならない。そして、高校の時に付き合った彼とはセックスをしていないので、今の彼氏は私が処女だと思っているかもしれない。そんなことを思っていると、スカートのポケットに入れていたスマホが震えた。きっと、セフレからラインだ。 「ちょっと、お手洗い行ってくるね」 「うん」  トイレの個室に入って、ドキドキしながらアプリを起動する。 『ごめん、今日は会えなくなった。また連絡する』  セフレからはその一文だけだった。念のため彼にバレないようにトークルームを非表示にしておく。セフレに会えると思って新しい下着をつけてきた私はいったいどうすれば良いのだろう。ふと、私は良いことを思いついてしまった。  席に戻ると彼氏が私に微笑みかけてくる。なんとも純粋な笑みを。 「ねぇ、これからどうする?」 「えーっと……。カラオケ、とか?」  彼は上目遣いに恥ずかしそうに言った。 「うちこない?」 「えっ?」 「えっちしたい」  彼は途端に表情を変えた。戸惑いというより、少し恐怖の表情だった。 「えっ、いや、その、あの」  彼は私から体を離し、キョロキョロと辺りを見回す。 「いや、僕はそんなつもりじゃ、いや、でも。あっ、君、もしかして処女じゃないの?」 「処女じゃないよ」  そう言って、彼の手に私の手を添えると、彼は慌てて手を引っ込めた。 「ごめん、やっぱり僕ダメだ」  彼は痴漢にでもあったかのように慌ててリュックを掴み、一人で店の外に出て行ってしまった。  はぁ、と私はため息をつく。なんてつまらない男だったのだろう。  テーブルに残ったポテトをつまんで自分の口に入れる。もう彼の口に入れてあげることはできないだろう。そう思うと少しだけ寂しさがこみ上げてくる。結局、今日も一人で眠るのか。私の中にあいた穴は今日も満たされることはなかった。
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