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私スイカ。種なしスイカ。
私はスイカ。
大きな甘い果実をその身に宿します。
みんな知ってるでしょ?
じゃあ、私たちがなぜ果実を作るか、知ってる?
それはね「スイカという種を絶やさないため」。
スイカの中には黒い種がたくさんあるわよね?
誰かに食べてもらって
種を運んでもらって
そこで芽を出し、花を咲かせ果実を宿す。
そしてまた食べてもらって...
その繰り返し。そうして私たち「スイカ」という種は、今日まで生存してきたの。
他の野菜や果物たちも、この戦略で今まで生き抜いてきたのよね。
でも聞いて欲しいの。実は私、周りのスイカとは違うんです。
人間によって特別な処理をされてできた「種なしスイカ」なんです。その名の通り、果実には種が無い...私の体の中で異常が起こってて、種が作れないの。
だから果実を食べてもらえても、種を運んでもらうことはできない。
私は何のために生まれてきたのかな?
そっか...人間に食べてもらうためか...
ただそれだけなんだろうね。
人間にとってはほぼゴミ同然の種が無いし、食べやすいし、良いこと尽くしね。
私にとっては全然良いことなんて...
ううん。いいの。私はそういう運命のもとに生まれたのだから。
種がないから、私の遺伝子はここで途絶えます。だから、一つお願いがあります。
私のことを食べる人だけでもいいから
頭の片隅にでもいいから
どうか私のことを覚えていてください。
とっても食べやすい、甘くて美味しいスイカが、今ここに確かに存在していたってことを。
...あれ?私って、脳みそ無いわよね?
じゃあこの想いは誰のもの?
おわり
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