肉体言語による話し合い

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

肉体言語による話し合い

『おい、ドワーフの。折角気持ちよく寝ていたのに、お前のデカイ声で起きてしまったではないか。ん、其奴は誰だ?』 ドワーフに話しかけて、私を見て訝しんだのは獣人だった。頭の上に獣耳を、尾骨の辺りに尻尾を生やしたしなやかな筋肉の女性。機敏な動きを得意とし、ロープ場の魔術師として売り出せそうな感じだな。 「お前達が数千万年程寝ていた間に、地上を支配している人間族の代表とでも言っておこうか」 『へえ、ならアンタを倒せば支配者交代だねーー』 脱力から一気に跳躍して背後を取りに来る獣人。獣の本能なのか、中々好戦的だ。ファンタジーのお約束としてなら住まいはエルフ共々森の中。森に住む者は好戦的でなくては生き残れなかったりでもしたのだろうか? 「先ずは話し合いをしたいのだがな」 背後からの攻撃を予測してしゃがみ込んでからの足払い。予想の範囲外だったのか、獣人は足を取られて倒れる。マウントポジション宜しく馬乗りになってすかさずキャメルクラッチ。 『ぐ、あ、が』 「背骨が折れるまで続けても良いのだが、話し合いに応じるというのであれば私の腕を二回叩け。それ以外の応答には一切応じない」 言った事を素直に受け取ってくれた獣人は、私の腕をちゃんと二回叩いてくれる。技を解いて側を離れると、ケホケホと喉を抑えてむせる。 「さて、他に肉体言語で語りたい者はいるかな?」 約半数の者はドワーフと同じで平和的な様子。しかし、残りはそうでは無かった。硬い鱗を身に纏い、太い尻尾地面に叩きつけ、耳の上辺りから立派な角を生やした女性が一歩前に出て来た。 『我は竜族。人間族とは素手での格闘が得意な様だ。どれ、我が軽く遊んでやろうぞ』 軽い踏み込みで、しかし一瞬で私に迫る。瞬発力は獣人を上回るかもしれない。だが、遊び半分のテレフォンパンチなど目を瞑っていても避けられる。 「悪いが、エンターテインメントで鍛え上げられた格闘は、遊びでやれる程緩くはないのだよ」 伸びきった腕を叩いて体勢を崩させてから背後を簡単に取ってガッチリホールド。ふむ、体重は鱗の関係かそこそこ有るな。一度身体を沈めてからの豪快なブリッジを決めてジャーマン・スープレックスをお見舞いする。 『グハ!?』 肺の空気が全部外に漏れて悶絶する竜族。私だけブリッジから起き上がり、軽く土誇りを払う。 「他には居ないか?」 『私が相手になろう』 この中で一番背が高く、口から生えている牙と額から生えている一本角が特徴的な女性。露出の高い服の為、お腹のシックスパックがとても良く映えている。 「種族は?」 『オーガだ』 数刻の後、私は相手の背後から両足を内側から引っ掛け、両手をチキンウイングで絞り上げていた。確か某漫画の技でリバース・パロ・スペシャルだったかな? 「一応脱出は可能だが、腕が使い物になりたくなければ『ギブアップ』と言え。それ以外の言葉には一切応じない」 『ぎ、ギブアップ・・・』 二人を目の前で無力化された事により、他の面子が名乗り出る事は無くなった。久々に語らう肉体言語のお陰で交渉がスムーズに済みそうだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!