きっかけ

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きっかけ

「あーー。ゴロゴロするのもそろそろ飽きたな。失業保険ももう切れる頃だし、またどっかラクな働き口探すっかな。駅前のフリーペーパーでも取りに行くとするか」  外は膨張したような生暖かい南風が吹く。平日の昼間に歩いてる人なんて相変わらず右も左も主婦と高齢者ばかり。その空気に似合わない20代の若者がウロウロと町へ繰り出した。  今日の空は青く、街ゆく人を見ては楽しそうに見えた。何か目的があるからか? 同じ空でも坂上伊吹には〝うわの空〟が似合いだった。  電車のガード下まで歩いて来ると、ガタンゴトンと電車の通過する音がまるでMRI検査でも受けているように頭に響く。いつも通る道だというのにすれ違う人は毎日が見知らぬ人。住宅街から少しずつ背の高い雑居ビルが見え始めると、駅周辺まで近づいたことがわかる。  坂上伊吹がふと斜めに目線をやると、小さなビルの1階に窓口業務っぽいのに居眠りしているおじさんが見えた。 「お? ヒマそうだな。何の会社?」  看板には〝テーコーツーリスト〟とあり旅行会社だった。 「あんまり気にしたことなかったけれど、こんなところに旅行会社なんかあったんだな」  通りを歩きながら店を何気に見ると、黒のマジックが色褪せて薄くなった、手書きの求人の貼り紙を見つけた。 「求人? やった!」  坂上はヒマそうに見えた姿が気に入り、早速履歴書を買いにコンビニへ向かうことした。客の少ないイートインに入り、慣れた手つきで履歴書に記入をすると財布に入れっぱなしの写真を貼った。  昔50m走6秒2だった瞬足を活かしこの時ばかりは急いで店に戻る。    
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