メンタルは鍛えられた

1/1
前へ
/19ページ
次へ

メンタルは鍛えられた

 店長のその笑顔は、大量発生した夜光虫のように光り輝いて見えた。過酷なミステリーツアーから帰ってきた坂上は、ぐーたらな生活をしてきた過去を置き、前へと歩き始める。 ーー家にこもってちゃ人生もったいない。前を向くから強くも楽しくもなれる。  些細なことだが坂上はそれに気づくことが出来た。ここで何か不安や困難があったとしても、それはきっと小さなこと。  あの雷の衝撃に比べれば、あの鉄骨のようなサメの牙に比べれば、そんなのたかが知れてる。そう思える精神的な強さを身につけた。    この先、何かの壁にぶちあたって挫けそうになったとき、ストレスになりそうだったとき、坂上はこう考えることにした。 〝一歩間違えればオレは猛攻撃を受けたあの牙に襲われ、カプセルは壊され、中から引きずり出されて腕をもぎ取られ、複数のヤツらに両足を食いちぎられ、血の匂いで暴れまくるヤツらに内蔵を引っ掻き回され、最後に頭をパックリやられて終わっていたんだーー〟  そう思えばどんな悩みもそれ以上辛いことはない。  そんなグロい自分を想像すれば、どんな悩みもそれ以上つらいことはないと、鋼の心を植えつけた。 「ドン底にいれば、上を向くしかないんだよ」  そういって伏し目がちに笑うと、事務所のカレンダーに目をやった。  今は西暦21××年。  事故をきっかけに未来に吹っ飛ばされたことに、坂上はまだ気づいていない。        《  完  》
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加