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メンタルは鍛えられた
店長のその笑顔は、大量発生した夜光虫のように光り輝いて見えた。過酷なミステリーツアーから帰ってきた坂上は、ぐーたらな生活をしてきた過去を置き、前へと歩き始める。
ーー家にこもってちゃ人生もったいない。前を向くから強くも楽しくもなれる。
些細なことだが坂上はそれに気づくことが出来た。ここで何か不安や困難があったとしても、それはきっと小さなこと。
あの雷の衝撃に比べれば、あの鉄骨のようなサメの牙に比べれば、そんなのたかが知れてる。そう思える精神的な強さを身につけた。
この先、何かの壁にぶちあたって挫けそうになったとき、ストレスになりそうだったとき、坂上はこう考えることにした。
〝一歩間違えればオレは猛攻撃を受けたあの牙に襲われ、カプセルは壊され、中から引きずり出されて腕をもぎ取られ、複数のヤツらに両足を食いちぎられ、血の匂いで暴れまくるヤツらに内蔵を引っ掻き回され、最後に頭をパックリやられて終わっていたんだーー〟
そう思えばどんな悩みもそれ以上辛いことはない。
そんなグロい自分を想像すれば、どんな悩みもそれ以上つらいことはないと、鋼の心を植えつけた。
「ドン底にいれば、上を向くしかないんだよ」
そういって伏し目がちに笑うと、事務所のカレンダーに目をやった。
今は西暦21××年。
事故をきっかけに未来に吹っ飛ばされたことに、坂上はまだ気づいていない。
《 完 》
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