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成り行き編入
「初めまして、君が梅雨里君だね。まずは八ツ霧学園への入学おめでとう。僕はこの学園の理事長を務めている者だよ」
「……どうも」
目が眩むほどの煌びやかさと気品を備えた室内。
目の前のソファに座るのは理事長と名乗るイケメンすぎるオジサマ。いや、オニイサンか。
あんまりというか全く状況を飲み込めない俺は、オニイサンからの祝福の言葉に魂の抜けた返事を返すだけだ。
「本来ならこの学園に高等部から入学するっていうのも珍しいんだけど、君みたいに2年生から編入するのは異例中の異例なんだ。でも編入試験もその他の審査も申し分ない結果のようだから問題ないよ」
「……はあ」
編入試験、と聞いて真っ先に思い浮かんだのは約二週間前の出来事だ。
最近行方知れずだった父親から久々に送られてきた安否確認の知らせ。
宛先も差出人も書かれていない一通の封筒には、思春期のお子さまにはなかなかに難しいと思われる主要5科目のテスト用紙と『参考資料にしたいから頑張れ』と書かれたメッセージカード。
あの父親のことだからまた何か悪趣味な実験にでも使うのだろうと、疑いもせず適当に解いたことは記憶に新しい。
今思えばあれがこの学園に編入するためのテストだったのかもしれない。
いや、ほぼ100%この学園への編入テストだ。もっと人を疑えよ俺。
そして適当にやったにも関わらず申し分ない結果と言われた俺はやっぱり頭が良かったらしい。これは嬉しい副産物だ。グッジョブ。
「──…ということで授業は明日からだよ。勉学に励んで楽しい学園生活にしてね」
「あ、はい」
『ということで』に繋がる部分を全く聞いていなかったが、とりあえず話は終わりらしい。俺は遠慮なく理事長室を後にした。
この際、最初から最後までいまいち話がわからなかったことには目を閉じよう。
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