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儀式2
みっともないほど、声が震えた。
もし暁宏が迷ったらそう言えと、朔哉は父から命じられていた。
言った瞬間、躯が熱くなり背に汗が噴き出た。
暁宏は片方の眉をつりあげた。
「いや、いい。抱くのはやめておこう」
食後の紅茶を断わるかのような淡々とした言い方だった。
自分の何が気にいらなかったのだろう。聞きたかったが、そんな厚かましいことはできない。暁宏の横で、父が眉間にしわを寄せた。
務めを果たせなかった息子に失望しているのかもしれない。
緒方家当主に抱かれるのが、代々執事を勤める西川家の仕事だった。
好意があっても愛情は芽生えていない相手に足を開くなんて、いくら伝統とはいえ朔哉は戸惑った。
けれど、生まれながらに背負ったのだ。
そう言い聞かせて何も言い返さず父に従った。
暁宏に断られ、怒りにも似た屈辱を感じた。肌を見せるために、年頃の女のように体を磨いてきたのに。
しかし一年経った今では、あれが暁宏なりの優しさだったのではないかと思う。
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