新歓ノルマ

2/2
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
 これだけの無理難題を押し付けられている以上、勧誘の方法は強引にならざるを得ない。最後の授業が終わった瞬間合唱部皆で玄関前へと駆けつけ、昇降口までの通路を塞ぐような形で新入生を待ち伏せる。汚れひとつない上靴を履きボタンにサビひとつ付いていない学ランを身に纏った生徒を見かけた瞬間、 「入る部活、決めた?」  と2人1組で呼び止める。そして通路を塞がれた新入生を別室へと連れ込み、 「全国大会へ何度も出ている強豪校だよ」 「練習はそこまで厳しくないよ」 「旅行に行けるよ」 「指定校推薦が取れるよ」 「音楽の成績は絶対5になるよ」  と、美辞麗句を並べ立てるのだ。これでも全くなびかない場合は伝家の宝刀を抜く。 「女子校との交流があるから、彼女をつくるチャンスもあるよ。男子校で帰宅部だと彼女をつくるチャンスはほとんど無いよ」  哀しい男のサガで、これで新入生、特に中学生のときに女子との縁が薄かった新入生の気持ちを多少ぐらつかせることができる。いくら受験が本分と頭の中ではわかっていても、人間が持ち合わせている本能に(あらが)うことはできなかったりするものなのだ。そして新入生の気持ちがぐらついたところで、 「今日本入部を決められない場合は、仮入部っていう手があるよ」  と仮入部届を差し出す。あとは北川がやられたように本入部の既成事実を上手くつくってしまいなかなか抜けづらい空気を作ることで、部員を確保するという戦法だった。これを1週間続けて37名の新入生を何とか確保することはできたが、北川の心の中にはズシリと鉛のように重いものがかぶさっていた。 ーー僕は結局、自分がやられたくなかったことをやり返してしまった……
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!