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筧の相談
定期演奏会から一夜明けたが、寒椿高校の合唱部は定期演奏会の翌日といえど練習が休みになることはない。この日も午後1時から全体練習が行われていた。定期演奏会明けで少し緩めの練習になるのかと思えばそんなことはつゆほどもなく、秋の大会に向けて練習はさらにハードになった。外ではアスファルトに太陽光が照りつけ、ジイジイとセミの鳴く声が聞こえる中、音楽室では今日も雄々しい歌声がずっと響き続けた。
「それじゃあ今日はここまで」
瀧口がそう告げて譜面台にタクトを置いたのは午後4時半を回った頃だった。
「ありがとうございました」
田辺の号令とともに
「ありがとうございました」
全員が声を揃えて瀧口に頭を下げた。その後全体ミーティング・パートミーティングを終えて北川が時計を見ると、時刻はすでに午後5時を回っていた。
「あの、北川先輩……」
北川は後ろから声をかけられた。そこにあったのは筧の姿だった。
「ちょっと、相談したいことが……」
筧の顔は思い詰めている様子だ。北川はその様子を見て何かを察した。
「わかった。ここではなんだから、別な場所で話を聞こう。筧の帰り道はどっちだったっけ?」
「駅の方向とは逆方向です」
「なるほど。だったらちょうどいい。国道沿いにファーストフードあるだろ?あそこに30分後でどうだ?」
「わかりました。ではそこに伺います」
筧はそう告げると、音楽室を出て自転車置き場へと向かっていった。
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