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「今度は先輩の番ですよ」
筧が顔を上げ、北川の顔を真っ直ぐに見つめる。
「僕の番、というと?」
北川がきょとんとした顔でそう訊き返すと、筧は意を決したような表情で口を開いた。
「僕は本音を話しました。北川先輩も本音を話してください。僕は先輩に以前尋ねました。『今のこの部活、どう思ってるんですか?辞めたいと思ったことはありませんか?』って。そのとき先輩は言いましたよね?『辞めたいと思うか?じゃない。辞めてはいけないんだよ』って。これは北川先輩の言葉じゃない。寒梅高校セカンドテノールのパートリーダーの言葉です。僕は北川先輩という1人の人間に訊きます。先輩はこの部活、辞めたいと思ったことはありませんか?」
真っ直ぐに問いかけてくる筧の視線に対し、北川はため息をついた。
「僕の考えも同じだ」
ただひと言、北川は答えた。
「じゃあどうして、辞めないで続けてきたんですか?これだけ納得できないことを山ほど抱えて、それでも合唱部を続けている理由は、何ですか?」
「……僕も、同じ穴のムジナなんだ」
北川はテーブルに何かを蔑むような暗い視線を落とした。
「定期演奏会のとき、チケットと広告で売り上げのノルマ、あっただろ?」
「……はい」
「同じようにノルマがあったんだよ」
「何にですか?」
「新入生の勧誘についてだ」
北川は目をつぶり、そう告げた。
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