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「お疲れさん!」
演奏会を終えて撤収作業をしている北川達のもとに1人の男がやってきた。
「あ!岩田先輩!」
部員達が駆け寄っていく。岩田は去年卒業したセカンドテノールのパートリーダーで、慶明大学に推薦で合格。現在東京に住んでいる。応援に駆け付けたのは岩田だけではなく、同じくセカンドテノールのメンバーだった田中と遠藤の顔もあった。
「よし、じゃあ終わったら焼肉行くぞ!」
「うおー!」
北川以外のメンバー全員の声が揃った。
北川達セカンドテノールパートの一員とOBメンバーは合わせて26名。北川が焼肉屋の自動ドアの先へ足を踏み入れた。
「26名でご予約の北川様ですね。こちらになります」
店員に促されて奥の個室へと入る。皆が席につくや否や北川は飲み物のオーダーを順次とりまとめていって店員へと告げ、入り口最寄りの席へと着いた。
全員に飲み物が行き渡ったところで、
「北川!乾杯の音頭!」
と部長の田辺が耳打ちする。北川は言われるままに立ち上がった。
「それでは、定期演奏会お疲れさまでした。乾杯!」
「乾杯!」
グラスをカチンカチンと合わせる音が響く。北川も目の前にいる後輩・筧とグラスを合わせ、中身のウーロン茶を飲みほした。
炭火がパチパチと燃える音が聞こえ、ほどよく焼けた肉の香りが鼻をついてくる。大きな舞台を終えたパートの皆の顔は清々しく、会話も弾んでいた。
「遠い国はだいぶ難しい曲なのにみんなよくやりきったよな」
とねぎらうOBの声もあれば、
「あとは秋の大会で勝ち抜くことが必要だな」
と、すでに前を見据えている者もいる。だが、北川が思っていることはただ1つだった。
――もう、帰りたい……。
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