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北川はパートリーダーの任務を負ってはいるが、決して自ら望んでこの責務を引き受けたわけではない。寒椿高校の男声合唱部では慣例として秋の段階での2年生のメンバーが協議して次の年の役職を決めることとなっている。そしてその決定を1年生は拒否することができない。北川も決して例外ではなかった。パートリーダーの仕事はパート練習の指揮だけではない。定期演奏会やコンクールの際の写真や音源の購入希望の取りまとめやパート内の部費や合宿代の徴収、そしてこういった打ち上げのセッティングも仕事に含まれる。
「おう、北川!元気でやってるか?」
岩田が北側のテーブルへとやってきた。そして目の前にあるカルビや軟骨を焼き網の上に並べていく。
「まぁとりあえず定演が終わったので、ホッとしています」
北川は当たり障りのない言葉を選びながらそう告げた。
「そうか……」
岩田は焼き色がついたカルビをひっくり返しながらそうつぶやく。
「まだまだお前には自覚が足りないな」
「はぁ……」
岩田から飛んできた突然の言葉に、北川はキョトンとした表情でそう答えた。
「田辺とか小泉とかお前の1コ上の奴らは、お前に部員としての自覚を持って頑張ってもらうためにパートリーダーにしたんだ。それに応えようとしてるか?」
北川は岩田の発言の意図を全く汲み取れずにいる。
「縁あって入部したんだろ?期待を受けてパートリーダーになったんだろ?もっと頑張らないとな」
岩田はそう言って北川の肩をポンと叩くと、別のテーブルへと移っていった。田中などから大学生活の様子を聞かれ、得意げに質問に答えている。
「先輩、大丈夫ですか?」
後輩の筧がそう尋ねてきた。
「あぁ。気を遣わせて悪いな」
北川はそう答えつつ、岩田の背中を眺めた。
ーー縁あってなんて、よく言えるよな。
北川はその言葉を噛み殺した。
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