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《三》懇願
君は、夜伽の最中に僕に触れたがる。
一度だって触れ合わせたことのない唇、そこへ指を這わせたがる。
どうしてそんなことをする。やめてくれ。誤解してしまう。
頭を抱えたくなっては、君を乱すことだけ考える。余計なことなど少しも考えられなくしてしまえばいいと、やがて頭の中はそれのみになる。
前にも増して、地味な着物ばかり選ぶようになったという。紅も差さぬ日のほうが多くなったと。
彼女の世話についている下女は、『初めからご無理をなさっていたのかも』と言った。派手な衣装を好んでは艶やかな紅を選ぶ……そういうふりをしていたのではないかと。演じていたのではないかと。
ますます彼女と重なる。
その面影がひとつに重なり、そこでようやく我に返る。
違う。この人は彼女ではない、彼女の妹だ――心底そう思い知らされるのだ。
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