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 このバンドのギタリストの演奏は下手くそと呼ばれるレベルにすら達していなかった。興奮した猿にギターを鳴らさせているようなものである。  ドラムが鳴らす軽快な律動も、ベースが奏でる旋律も、一纏まりの不快な音へと変えて客席へ放っていく。それでいて男の態度は昂然としているものだから、観客の怒りは増していくばかりだった。    その怒りに触発されるように、ステージ上の男達のボルテージも上がっていく。  合わせようもないギタリストの演奏に、自棄になったか、ボーカルの男は卑猥な言葉を叫びだし、ドラムの男と共に独善的インプロビゼーションを始めると、それ見た客がまた怒ってと止めようのない悪循環が生まれた。  熱気と熱気、騒音と罵声が正面からぶつかって立ち上ぼり、低い天井で広がって渦を巻く。  叫ばれる暴言はより辛辣に。男達の演奏は狂気を孕み、ハコと呼ばれるその地下空間を震わせる。  そんな中、ステージ脇からライトの下へと躍り出る者達があった。  それは、ぼろ布のような衣服を身に纏い、死人のように蒼白い顔をしたゾンビの集団だった。
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