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この後に演奏を控えていた五人組バンド、死霊音楽隊である。
低価格で用意されたであろう衣装とメイクでゾンビに扮した彼等は、ヴォーカルを務めるジョージ安藤の透き通るような美声と、ゾンビパウダーと呼ばれる緑色の粉を客へ振り撒くという奇抜なパフォーマンスを売りとしており、知る人には「何がしたいのかさっぱり理解出来ない奴ら」と知られている一団だった。
同じステージに立つ者として、男達の凶悪な演奏が許せなかったのだろう。或いはその注目を、単に妬ましく思ったのかもしれない。何せ仮装までしてステージに立とうという五人組である。ゾンビメイクの下には怒りの色が伺えた。
「やるぞ、お前ら!」
一体のゾンビが声を荒らげると音楽隊は一斉にワインドアップ。そして息を合わせ、楽器を鳴らし続ける男達へ向けて腕を降り下ろした。
突如としてステージの上は緑色の煙に。何処からか「ゾンビパウダーだ!」と声が上がる。最前列にいた観客達が涙を浮かべて咳き込む。
直後、その煙の中から客席へ飛び出す一つの影があった。
平凡な顔をした男だ。死霊音楽隊の攻撃を受ける直前、男はギターを放り、ステージからダイブを敢行していたのだった。男は打ち上げ花火さながらに、緑色の煙を纏って宙をいく。
数人を飛び越えた先、押し合う観客達の上に落下すると、運動会の大玉のようにしてステージの反対側へと運ばれていく。
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