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 演奏開始から一分を待たずして、ステージを照らすスポットライトは背教の徒を暴く告発の光と化した。 「やめろやめろ!」 「引っ込め、下手くそ!」  客席で上がる不平不満、罵詈雑言の大合唱。  タバコの空き箱、丸められたチケット。タオルや衣服までもが宙を舞い、汚れた床の上に溢れた酒を幾つもの足が踏みつける。  怒れる群衆が異様なまでの熱気を生み出すその様はまるで革命だった。  高さ一メートル程のステージ上に立つ三人の男は、会場の暗闇を切り取るような明光の下、その声に負けじと音を奏でる。  髪を逆立てたベースボーカルの男がマイクへ吼える。坊主頭の男が汗と涎を飛び散らせながらスティックを振り回す。平凡な顔をした男がギターを掻き鳴らせば、生物にストレスを与えるために存在しているかような音がこだました。 「やめろって言ってんだろ!」  ロックバンドの最小構成ともいわれるスリーピース。それぞれの個性を遺憾なくアピールできる反面、各パートが持つ責任は大きく、個人の技量が聞き手にも伝わり易い。  つまり一人の下手くそがいれば、残りの二人の演奏がいかに卓越したものであろうと、台無しにしてしまうのである。
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